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未知との遭遇
今のは一体何だったんだ…俺は思わずベッドでうずくまり怯えた。
「空耳だろうか?気晴らしにまた図書館に行くか」
そう考え着替えこんで外に出る。すると今度は街の人々の話し声が聴こえてくる。
「あの昼間っから何してるのかしら?」
「小説家目指しているらしいわよ」
「馬鹿じゃないの?」
人々の嘲笑する声が聴こえてくる。俺は思わず道端にうずくまる。
「一体何が起きているんだ?何故この街の人々は俺がニートで小説家を目指していることを知っているんだ?もしかしたら呆れた母親が近所に言いふらしているんじゃないのか?」
そう思い一旦家へと戻り、母に問いただす。
「俺が小説家目指していること周り近所に言ってないよね?」
母は呆れた声で言い正す。
「そんなこと恥ずかしくて言える訳ないじゃない!それに今はそれどころじゃないわよ。あんたも図書館なんて行ってないでいい加減バイトぐらいしなさいよ!」
俺も少しムッとした表情で言い返す。
「でも街歩く人たちがみんな俺のこと話しているんだ!」
母は怒った表情をしたまま自分の部屋へと戻っていってしまった。
「今に見てろよ!大先生になってあいつら全員見返してやるからな」
俺は再び家を出て、図書館へと向かった。相変わらず街の人々は俺の噂話をしているがそんなこと知ったこっちゃない。今はそんなことより小説家を目指すことが最優先だ。
図書館につくと読む本を探す。歴史小説なんてどうだろうか?あいにく大学も出ていない上に歴史は苦手だが参考程度にはなるだろう。何か読みやすそうな本があればいいのだが、どれも難しそうだ。
「司馬遼太郎?名前だけは聞いたことあるぞ。読んで見るか。」
とりあえず手に取り、坂の上の雲という本を読んで見ることにした。ある程度読み進めたのだが、登場人物の多さと地理感の無さから難しすぎる。それから図書館内でもどうやら俺の噂話をしている人がいて内容に集中できない。それでも我慢して読み進めているとあることに気づいた。
「この人の文調は独特だな。こういう個性は大事なのかもしれない」
俺も自分だけの個性を出せばいいのかと思った。その点においては参考になったが、1巻の途中まで読んだだけでもう読む気が失せた。
「歴史物はやっぱり難しいな。学生時代にもっと勉強しておくべきだった。」
後悔もあったが今更勉強する気も起きないので歴史物を書くのは諦めることとした。
「今日は変なことも多いし、家に帰るか…」
本を本棚に置き家路につくことにした。図書館を出て家へと戻る途中に、何か変な視線に気づく。
「あの人さっきからずっと俺のことつけてないか?」
思わず早歩きで家へと帰ろうとするもやはり通りすがりの人たちはみな、俺のことを話してる。
「これじゃまるで俺が物語の主人公じゃないか、こういうのは何小説って言うんだろうな?サスペンスか、いやむしろこれはホラーだ」
思わず怖くなり家に帰ると、すぐに自室へと戻った。
「今日は変な一日だったな。明日は探偵物とかホラー小説でも読んで見るか」
いつもどおり夕食を済ませると自室でPCをつけ今日読んだ「坂の上の雲」について調べてみた。
「こういうときWikipediaは便利だよな。」
しばらく読んでいると眠くなってきた。明日は何を読もうか考えていると、何だか体がビリビリする。きっと疲れのせいだろう。今日は変なことが多すぎて体も参っているんだな。また明日から頑張ろうと考え寝ようとするも、やはり体のしびれが気になり寝られない。そんな感覚を押し殺すと気づいたら朝になっていた。
朝の目覚めは最悪だ。生まれてこの方快眠以外したことなんてないのに、疲れが取れない。鏡で歯磨きをしていると自分の顔色が妙に悪いことに気づいた。相変わらず体はビリビリするし、家の目の前にある通学路では小学生たちが俺のことを罵倒している。さすがに気分が悪くなり朝食も半分食べただけで残してしまった。母からも体調を心配され、病院へ行くよう促される。
今日は図書館へと行かずに近所の内科へと行くことにした。身支度を整え、外へと出るとやはり昨日と同じ状況だ。内科へと入ると受付を済ませ問診票を書かされる。体がビリビリして寝られないことを書くことにした。しばらくすると俺の番が回ってきた。順番を待っている間にも患者の老人たちが、俺の噂をしているが今更もうどうでもよくなってきた。
老人の先生はしばらく問診票を見ると、ゆっくり語りだした。
「疲れでしょうねぇ、軽めの睡眠導入剤を出しておきますね」
そう告げるとそれだけで診察は終わった。全く医者はいい商売だよなと心の中で思いつつ、受付で処方箋を貰うと隣の調剤薬局で睡眠導入剤を貰う。このまま家に帰ってもいいのだが、せっかくなのでいつもどおり図書館に行くことにした。相変わらず後をつけているやつはいるし、噂話をしているやつもいるが、そんなことより今日読む本の方が大事だ。
「そういえば医療物なんかも良いかもしれないな」
早速、図書館へと行くと自分にも分かる本があった。山崎豊子の白い巨塔だ。あいにくテレビはあまり見ないがこれはドラマで見たことがあるのである程度内容が分かる。さすがに原作は古いので今の感覚とは違う部分も有るがなかなか面白い。さすが権力闘争と医療過誤を混ぜ込んだ屈指の名作だ。ある程度読み進めると、残りは家で読むことにした。図書館を出ると相変わらずつけて来る人と噂話が聴こえてくるが、奇妙な出来事も続けばそれが日常となる。珍しくリビングで白い巨塔を読んでいると母が一言ぼそっと言う。
「医療ミスは怖いわよねえ…お父さんはどちらにしろ助からなかったけどね」
最近奇妙な出来事が多すぎて心の奥底に、行きつつあった父の死を再び思い出した。夕食を取り、風呂にも入り歯磨きをしたあとに自部屋のベッドでしばらく読み進めているとまたいつもの体のビリビリがやってきた。医者も疲れのせいだと言っていたし、今日はもう寝ることした。睡眠導入剤を飲むと気づいたら眠りへとついていた。
翌朝起きると相変わらず体のビリビリは取れないし、疲れも取れない。また通学路では悪口を言われている。1階に降りると朝食を取ることにした。するといつもの味噌汁をすすった瞬間に違和感に気づいた。
「いつもと味が違う…」
母はいつもどおり朝食を摂っているが俺はある疑念が湧いてきた。
「もしや、この飯毒が入っているんじゃ…」
「とうとう穀潰しの俺のことを殺しにかかっているのか?今までの噂話の件も母が言いふらして、俺を精神的に追い詰めて自殺させようとしているんじゃ?体のビリビリもどっかに装置があってそれを使って殺そうとしているんだ!」
俺は心の中で確信に変わった。もう母の作った料理は食べないようにしよう。急いて身支度をすると、とりあえず外へと出た。警察に行くのも手だが、多分信用してくれない。仕方がないのでいつもどおり図書館へと向かうことにした。
「こんなサスペンスホラー本当にあるんだな…せっかくだから今日はそれを読んで見るか。」
図書館へと着くと適当に本を手に取ると、貴志祐介の黒い家という本が目に入った。とりあえず読んでみよう。
「なんだこれこわっ!」
活字の苦手な自分でも続きが読みたくなる。案外自分に向いているかもしれないと思った。なんせ現実に体験していることだ。読み終わると夕刻になっていた。
「帰りたくないなあ…とりあえずしばらくはカップラーメンで済ませるか。」
途中でスーパーに寄りカップラーメンを買い、帰り家路につく。リビングで夕食を作っている母が、悪魔に見える。母が突然話し始める。
「あんたなんか最近変よ。どうしたの?もうすぐ夕食出来るからできたら呼ぶわね。」
この悪魔は一体何を言っているんだ。実の息子を殺そうとしているのだぞ。
俺は悟られないように言う。
「お母さんも疲れてるだろうし、しばらく食事は作らなくていいよ。自分で買ってくるから」
母は怪訝そうな顔で納得したようなしないような顔をしていた。
「それより今はこの体のビリビリを止めなくちゃ…一体どこに、隠しているんだ」
家中の大捜索が始まった。しかし、どこを探しても見当たらない。俺は一つひらめいた。
「これはきっと遠くから母が委託して電波を飛ばしているんだな。そうだ!明日はSF小説を読んでみよう」
カップラーメンを食べ、いつもどおり自部屋へと戻ると体のビリビリに耐えながら睡眠導入剤を飲んで無理やり寝ることにした。
翌朝起きるとこの悪魔のような家をすぐに出て、図書館へと向かう。何か感覚がおかしい。俺が心の中で考えたことが筒抜けになっているかのように通りすがりの人が噂話をする。
「あの人、親に殺されそうらしいわよ」
「かわいそうにねえ」
「あの人SF小説が読みたいんだって」
俺は思わず叫んだ。
「俺はプライバシーはどこにいった!」
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