サイエンスノンフィクション

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サイエンスノンフィクション

もう街を歩いていてもうかうか考えごともできない。可愛い女の子を見ようが、かわいいなんて絶対思っちゃ駄目だ。とにかく無心で図書館へと向かうことにした。図書館へと着くと今の自分の境遇に合わせて、SF小説を読むことにした。やはりSF小説の王道と言えば2001年宇宙の旅だろう。早速手に取り読んでみることにする。 「難しすぎる…これは無理だ」 他にも火星年代記や星を継ぐものなども読んでみたがやはり難解すぎる。というより翻訳が悪文すぎるのだ。ならばと、名前だけは聞いたことのある日本人の書いた筒井康隆や小松左京を読んでみよう。 「面白いことは面白いんだけどこれ俺に書けるのか?いや待てよ…今の自分の境遇はホラーとも言えるしSFとも言えるし書こうと思えば行けるんじゃないのか?」 謎の自信に溢れてくる。世界中を探しても電波で体を虐げられている人間なんて俺ぐらいではないだろうか?そう考えるとあたかもスーパー超人になった気分だ。おまけに街中の噂の対象になっている上に、母親には毒殺されそうになっている。今の自分にはなんだって書ける。そう思うとこの状況って実は有利なのではないだろうか。 「この状況ってノンフィクションとも言えるよなあ。ノンフィクションも読んで見るか」 適当に取った本は猪瀬直樹の「ミカドの肖像」だ。少しだけ読んでニートの俺にこんな取材力がないことにすぐに気づいた。 「ただ堤康次郎って人はえげつないな…まるでうちの母親のようだ」 冗談ながらに母親のことをノンフィクションで書こうかと思うと遠くから声が聴こえてくる。 「母親をノンフィクション小説の対象にするらしいわよあの人」 「変ねぇ」 俺は思わず心を無にする。 「いけない。いけない。今の俺の心は筒抜けになっているんだった」 ならばこの状況を利用してエッセイを書くのはどうだろうか?本棚にある「村上朝日堂」を手に取る。読み始めると読みやすいことこの上ない。やはり大御所の書いたエッセイは話も面白い。自分にこういうのが書けたらなあと羨ましくなる。純文学作家は難解そうなので敬遠していたがやはり頭のいい作家は噛み砕いて書くことも出来るのだと感心してしまった。どうせならとそのまま村上春樹の「アフターダーク」を読むことにした。 「うーん語彙というかよく思いつくなあとは思うけど自分には合わないかな」 すぐに本棚に、戻してしまった。ならばと短編集の「東京奇譚集」を読む。なかなか面白いではないか。確かに難しいところもあるが短編なので集中力が切れてもすぐに1話が終わるので読みやすい。 「短編と言えばそういえば中学生の頃に少しだけ星新一を読んで出たなあ…少し読んでみるか」 読み進めていくと、星新一がいかに頭の切れる人物なのかがよくわかる。そして同時に気づく。短編集こそ地頭と才能なのではないのかと。そうなると頭の悪い自分には無理だ。 「やっぱり自分に小説家は無理なのかなあ…」 そう心に思うと遠くから声が聴こえてくる。 「無理に決まってるだろ」 「人生で何も頑張ってこられなかったやつが小説なんて書ける訳ないだろ」 「面白そうだから今日も家までついていってみようよ」  ああ、そうだった今の自分の心は筒抜けになっているんだった。しかもあいつら家まで来るつもりかよ…自分はなんて不幸な人間なんだろうと泣きそうになる。しかも、実の母にまで嫌がらせを受け、毒殺されそうになっているのだ。 「この難事件を解決する…そういうのだと探偵小説だな」 本棚から自分の知っていそうな江戸川乱歩の「怪人二重面相」を手に取る。とりあえずこれにするか。青年向けなのもあり、スラスラと読め進められる。ただ、今の自分の難事件を解決出来ていない自分に推理小説なんて書けるわけがない。そう思うと再び落胆した。窓を見るともう外は真っ暗だ。 「日が沈むのが早くなったなあ。もう帰るか」 そう思った瞬間、体で電撃が走る。比喩表現の電撃ではない。文字通りの電撃だ。こんなところにまで電波を飛ばしているのか。周到にも程が有る。せっかくニートの俺が小説家になろうと頑張っているのに、なぜあの悪魔はこんな嫌がらせをするのか?それどころか実の息子を殺そうとまでしている。ますます気が滅入ってきた。警察に行こうかと一瞬頭をよぎるが、相手にしてくれる訳がない。ただ一つ解決方法があるとあるとすれば、小説家になってあの悪魔を認めさせることだけだ。そうすれば現状の俺を知っている街中の人々も、さすがに何も言えなくなるだろう。 「お父さんが生きてさえいれば、こんな悲惨な目に合うこともなかったのになあ、なんでしんじゃったんだろ」 その瞬間脳裏にある疑念が浮かび上がる。 「もしかしてお父さんを殺したのって…」 ニュースではたまに保険金目当ての殺陣がニュースになっている。あの悪魔はもしかして魔が差したんじゃないか?実の母が夫を殺し、息子まで殺そうとするで1本書けそうな気がする。しかもその息子は今や超人になり、自分の考えたことが筒抜けになるおかしな現象に悩まされている。しかもその母は謎の怪電波を飛ばしている。これだ!何小説なのかは分からないが、とにかく家に帰ったら仕上げてみよう。 帰りはいつものように俺の話で周りの人は盛り上がっているらしい。しかもあとをつけている人までいる。いいじゃないか、まさに物語の主人校らしいといえるだろう。途中でスーパーによると何を買おうか迷う。一応あの悪魔は死ぬまでの間だけ最低限のお小遣いはくれるらしい。ただ、お金も節約したいのでスーパーで半額弁当を買いレジを済ませ、外に出ようとするとスーパーの店員のヒソヒソ声が聴こえる。 「あの人最近毎日この時間になると来てない?」 「節約したいんだってさ」 「本当キモイよね」 俺は急いで、スーパーをあとにする。 「こっちは客だぞ。何を買おうが自由だしそれが客に対する態度か!それに人の心まで読みやがって」 しばらく歩くと家路につく。本当はどこかビジネスホテルでも借りて泊まりたい気分だが、そんなお金もないのでこのナイトメアハウスに小説家デビューするまでは泊まるしかない。 家に帰り、食事を済ませると悪魔とは会話もせずにすぐに二階の自室へと戻り早速PCと向き合う。 実の母が保険金目当てに夫を殺し、さらにその息子もあの手この手で殺そうとする話だ。そしてその息子は母の飛ばす怪電波に悩まされ、さらに人に心を読まれているという謎の現象に悩ませられるという話だ。ただ、この話にはオチが見当たらない。しばらく考え込むと、母の犯罪を証明し、それを警察につき出し無事解決といったところだろうか。人に心を読まれているのは解決していないけどそれは特殊能力みたいなものでもういいだろう。 しばらくキーホルダーに打ち込んでいると、またいつものしびれがやって来た。自分でも解決出来ていないのにこの登場人物は一体どうやって母の犯罪を証明するのだろうか?早くてもキーボードを打つ手が止まってしまった。そうこうしているうちに完全に行き詰まった。 「もういい、今日はもう寝よう。」 相変わらず体のしびれがあるので睡眠導入剤を飲み無理やり寝る。 翌朝起きると相変わらず体のしびれは続いていた。1階に降りると今日はあの悪魔がいないみたいだ。洗面所で歯を磨いていると顔色も悪く、やつれきっているのが自分でも分かる。 「そりゃこんな日常が続いたらな…」 リビングに行きなんとなくテレビをつけるとニュースがやっている。 「続いての特集です。増えるニートに政府はどう対策を〜」 まるで俺のことを言っているかのようではないか… 「今日の特集コーナーは小説です。今、小説〜」 偶然なのか、さっきから俺にまつわることばっかり言っているではないか。 さらにテレビを見続けていると半額弁当争奪戦のことを半分小馬鹿にしたよわうな特集をやっている。 「偶然なんかじゃない!これは故意だ!テレビ局は俺のことを知っているんだ!それも小馬鹿にしたような内容で俺をおちょくっている。」 急いでテレビを消すと、動悸が止まらない。 世界中がもはや敵になったような感覚が突然襲った。
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