光明

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 そこは完全な暗闇だった。  瞼を閉じているのか開けているのかも分からない程の完全な暗闇の中、私は腹這いに横たわっていた。  上下左右を岩の壁に挟まれているため、身動きはまるでとれない。両手、両足を伸ばした格好。横にしている顔の両側の頬骨は、僅かに動かすだけで上か下の地面に触れる。鼻と口の直ぐ先に右肩があるため息苦しい。どうにかしようにも、鼻がつっかえ頭を縦にする事も出来ない。  空気はひんやりと冷たく、噎せ返る程の濃い土の匂いがしていた。薄いシャツを通して、体の前面には硬い地面の感触が伝わってきている。  どうやら細い穴のようなところにいるらしい。穴は同じ間隔のまま先へ続いているようで、前後どちらかへなら進んでいく事が出来る。  私はそんな穴の中を、進み続けている。  周囲は壁に囲まれている。足も腕も自由が利かない状態で前に進むには、尻を数センチ上げ下げし尺取り虫のように這っていくか、伸びきった腕と動かせる足首で体を浮かせ、そのまま手足の筋肉を酷使して体を進めていくしかなかった。  この二通りのやり方にはどちらも欠点があり、まず先に述べた尺取り虫法では、体の前面、胸から腹にかけての箇所を地面に擦り付けながら進んで行かなければならないため、首筋に上に着ている長袖のシャツが頚椎にみるみると食い込んでいく。  体の動きが制限されている事もあり、これを首を動かすなり、体を地面に擦り付けるなりして定期的に直すのは甚だ面倒な作業であり、かといってそれを無視したままにしておくのは、首に負荷がかかる上に、伸びたシャツの首元から砂が入ってきてしまう。  今の体勢では一度服の間に入った砂を取り出すのは不可能であり、随分と前に己の不注意により入った少量の砂粒は、今でも腹の辺りに不快な感触を伝え続けている。
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