第二章

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「早坂さんにはわかってしまいましたか」  早百合さんはそう言うと、花を置いて鋏を置いて革手袋を外して、僕の方へ近づいてきた。 「この毒で何をしようとしていると思いますか?」 「……何ですか?」 「じゃあ質問を変えます。何ができると思いますか?」 「土壌を汚染すること、魚を殺すこと、植物を殺すこと、……人を殺すこと」  最後の可能性でなければいい。 その願いは見事に打ち砕かれた。 「そうです。私はこの島の人をみんな殺したいんです。私を生贄にするためだけに、いもしない神のために殺すため育てた人を、みんな」 「でも、そんなことをしても、」  何にもならない。 そう続けようとした僕の言葉は遮られた。 「もう殺したことがあるのよ。この島は自然だけは豊かだから花の毒を使って、前の長老を殺したわ」 「……どうして?」 「だって私を犯そうとしたんだもの。生贄は汚れがないことが大事だと言っておいてね。笑っちゃうわ」  犯そうとしたのも、殺すために育てたのも、それは確かに島の人が悪い。 でも島の人を殺すのも悪いことなのだ。 「なら、島の人を殺すだけで贄になる必要はないじゃないか。早百合さんが逃げれば殺す必要もない」 「あるわ」 「何で?」 「私が汚れた生贄として生贄になることで、あの人たちは生贄が悪かったせいで死ぬんだと思い込みながら死んでいくのよ」  本当に、復讐したいのだと思った。 島の人の無知さを嗤うこと。 それが早百合さんの復讐なのだ。 「でも、全員が毒を飲まないかも」 「いいえ。生贄が成功したらみんなで酒を飲む習慣があるの。その酒に入れれば間違いない」 「なら、この穴も毒を集めるための?」 「そうよ。この穴ができるまで、私はずっとここに閉じ込められていたもの」  島の男の人たちも、当たり前のように僕を襲っていた。 長老でさえ生贄が当たり前のようだった。 歪みに気がついたのは、生贄本人なんて笑えない。 「ねぇ、生贄がいる理由ってわかる?」  早百合さんのその言葉で、早百合さんの敬語がとれていることに気がついた。 「神を、鎮めるため?」 「違うわ。島の人たちのっていう虚栄心を満たすためよ」 「どういうこと?」 「つまり、生贄がいれば自分たちは平和だって思ってるってこと。神に守られていたい虚栄心を満たすため。私は生贄なんかじゃなくて虚栄心の塊なの」  生贄がいるっていうことは、神がいるっていう証明にもなると思わない? 早百合さんはそう言って、うっすら笑った。 いや、嗤ったと言う方が相応しいだろう。
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