突然の同居人

1/2
367人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ

突然の同居人

─────なにがどうしてこうなった?! 予定では田舎から一緒に出てきた幼なじみのなっちゃんとルームシェアしてたはずなのにっ。 なんで知り合って二週間も経たないような男とひとつしかない布団で寝るはめになってるのっ?! よりにもよってこんなっ……… こんな俺様的な男と────────!! 「わあ……やっぱり素敵。」 満開に咲き誇る桜の隙間から垣間見えるアールヌーボーな建築様式。 有形文化財にも指定されている厳格な建物を本館に持つこの高校に、私はこの春から通う。 大正時代末期に建てられたという重厚でありながらロマン溢れる雰囲気……たまりませんっ。 って、いつまでも見とれている場合じゃない。 職員室はどこだろう? まだ春休み中だというのに部活動をする熱心な声があちこちから聞こえてくる。 さすが文武両道を掲げる伝統ある学校だ。 活気があってワクワクしちゃう。 私もこの学校の一員として 希望に満ち溢れた新生活を──────…… 「危ないっ!ボールそっち行ったぞ!!」 ………えっ─────? 新生活一日目。 目的地にたどり着くことなく、顔面にサッカーボールを食らってぶっ倒れた。 ──────……どこだここは? 白くて長いカーテンが風になびいて揺れている。 「目え覚めたか?」 私を見下ろす淡いブラウンの瞳がドキっとするほど艶っぽい。 サラサラの青味がかった黒髪に美しく整った顔立ち。 なにこの人……凄くカッコイイ……… 太陽の光に照らされた彼はまるで、子供の頃に絵本で見た王子様のようだった。 「おまえ笑けるくらい鈍臭いな。あれくらい避けろよ。」 あれ…王子様口悪くね? 避ける?そうか私、ボールが飛んできて…… ……ちょっと待て。今何時だ? 「っ痛あ!クソてめえ!!」 ガバッと起きたもんだから覗き込んでいた王子様の頭に肩が勢いよく当たってしまった。 どうやらここは学校の保健室のようだ。 「ごめんなさい私っ職員室に行かないといけないんです!」 「おまえさあ、春休みだからって私服で登校すんなよ。ちゃんと制服着てこい。」 「えっ……いえ私、ここの生徒では……」 そう言うこの人はこの学校の教師なのだろうか? 見た目も性格も全然先生っぽくないんだけど…… 「あの、私は真木(まき)と言いまして……」 「ああ、学校見学に来た中学生か。」 ……はい? 中学生……だって? 「高校にはオープンキャンパスって日があるからちゃんと調べてから出直してきな。」 「いえっ……私っ!」 いくら幼く見えるからって中学生はないっ。 「新任教師ですから!!」 そう、私はこの桜坂高校に教師として通うのだ。 なんなの…… この男のポカンとした表情は…… 失礼すぎるっ。 私はこの春から高校教師になった。 恩師に憧れて進んだ教師への道。 そんな私の念願叶った胸膨らむ希望を、アイツはサクっと打ち砕いてくれた。 「きゃー!先生、今日もすっごくカッコイイ!」 「ガキに俺の魅力がわかってたまるか。」 「今度遊びに連れてって下さ〜いっ。」 「俺の貴重な時間をそんなもんには使わん。」 「先生の部屋でイロイロ教えて欲しいな〜。」 「彼女いるっつってんだろ。何度も言わすな。」 この女子生徒にモテモテな教師は相澤(あいざわ) 智之(ともゆき)、26歳。英語担当、教師歴四年。 私が副担任をする二年B組の担任を受け持っていて、私の指導係でもある。 この人、すこぶる口が悪いのだが見た目が超イケメンなので生徒からはとても人気があった。 塩対応なところもクールで素敵なんだそうな。 イケメンだとなにしても許されるんだな…… 今日も職員室の相澤先生の席には女子生徒が群がっている。 女子生徒というか…渋谷にいそうなイケイケギャルのグループだ。 隣の席である私はとても気が散って仕方がない。 「てめえら邪魔。今度来たらテスト0点な。」 ギャルを追い出したあとも相澤先生は苛立ちながら舌打ちをしていた。 こういう不機嫌な時って必ず私に当たってくるんだよな…… 「おいマキマキ。こないだ採点頼んだ英単語の小テスト、間違えまくりだったぞ。」 だって私の担当教科国語だもん。 英語なんて専門外だわ。 相澤先生は副担任である私をまるで小間使いのように扱う。 クラスに関するサポートならともかく、私だって自分が受け持つ授業で忙しいのにたまったもんじゃない。 「ったく、スペル間違ったまんま覚えたらどうすんだ。マキマキ。」 「……はい。すいません。」 じゃあ自分で採点しろよと心の中で毒づいてみた。 にしても…… 「相澤先生…私のことマキマキって呼ぶの止めてくれませんか?」 「なんで?本名だろ。」 それを言われるとグウの音もでない。 私の名前は真木 真樹(まき)という。 冗談ではなく本当にこんな名前なのだ。 小学生の時に母親が再婚をしたら、こんなふざけた名前になってしまったのである。 だって〜真木さんのこと好きになっちゃったんだもーんと、母には何度も謝られた。 一度聞いたら忘れないというメリットはある。 「おまえのアダ名、うんこだっただろ?」 「なんですかそれっ?」 「マキマキうんこ。」 サイテイだなコイツ…… 小学生の頃は言われまくったけど…… そんな私の元にも毎朝顔を見せに来る男子生徒がいた。 「マキちゃ〜ん、調子どう?」 「菊池(きくち)君……」 菊池君は受け持ちのクラスの生徒ではない。三年生でサッカー部のキャプテンをしている。 見た目が今風のオシャレな男の子って感じで、女子からの人気も高い。 そして私の顔面にボールを当てた人物でもある。 私のおでこに少しアザが出来たので責任を感じて様子を見に来てくれているのだ。 菊池君は指で私の前髪を払うと、じっとおでこを観察してきた。 心配してくれるのはありがたいんだけど、毎回顔が近いよ菊地君…… 「もう治ってるから大丈夫よ。チャイム鳴ってるんだから教室戻りなさい。」 「ちぇっ。じゃあね〜マキちゃん。」 菊池君は慣れた手つきで私の頭をぽんぽんとして出ていった。 生徒にこう思うのはなんだけど、菊地君て…苦手なタイプなんだよね。 先生って呼んでくれないし…完全にナメられてるよな…… 「なんだ今の対応は?」 えっ…… 隣からギスギスした殺気を感じる…… 「もっと危機感もて。」 相澤先生が眉間にこれでもかってくらいシワを寄せて睨んできた。 こ、怖い…… なんだよ。自分だってギャルとイチャコラしてるくせにっ。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!