突然の同居人

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う〜ん…気持ちのいい朝だ。 朝日を浴びながら飲む酒はサイコウだっ。 私は一人暮らしをするマンションのベランダで、スルメをかじりながらチビチビとカップ酒を飲んでいた。 私、日本酒大好きなんだよね。 ちなみに今日は学校は休みだから大丈夫。 それにこのカップ酒は日本を代表する清酒メーカーである酒造が作っていて、爽やかな喉越しの淡麗辛口であり朝からでも美味しく頂けるのだ。 えっ、そんな問題じゃないって?朝から酒かよって? まあまあ堅いことは言わないで。 まだ教師になって二週間も経ってないけど、アイツのせいでストレスたまりまくりなんだわ。 あんな奴の下で私、一年間もつのかな…… 「おーい。そこの飲兵衛。」 私が住むマンションに隣接するアパートから声をかけられた。 この声って…… 下を見るとまさかの相澤先生だった。 えっ…相澤先生の家って超ご近所だったの?! 慌ててカップ酒とスルメを後ろに隠した。 てか、私今すっぴんだし!ノーブラだしっ! 「おはようございますっサヨウナラ!」 「その日本酒、気が合うじゃん。」 ……気が合う? もう一度そろっと覗くと、相澤先生も同じ種類のカップ酒を持って飲んでいた。 ニッと笑う相澤先生と目が合う…… なんか…私が知ってる雰囲気とは全然違う。 学校ではピシッとスーツを着て隙がない感じなのだけれど、今はスウェットの上下だし髪も自然なままのせいだろうか…… いつもの毒気が抜けて優しい雰囲気に見えた。 イケメンて…どんな格好をしててもイケメンなんだな…… 「休みの日に朝からお酒飲むのって幸せですよね〜。」 「俺は担当クラスの資料を整理してたら徹夜しちまっただけだ。お気楽な副担任と一緒にすんな。」 相澤先生は寝ると言って部屋に入っていった。 普段は良い人なのかなと一瞬錯覚したのに…やっぱやな奴じゃんっ。べ〜だっ! でも……クラスの子達の資料作りか───── 相澤先生って2年B組の生徒の名前と顔を始業式には全員完璧に把握してたんだよね。 クラスの子達に名刺を配って困ったことがあったらいつでも連絡してこいって言ってたし、サッカー部の顧問も熱心にやってるみたいだし…… 口悪いし偉そうな態度なのに、意外と生徒思いの先生なんだよね。 生徒達にもそれが伝わっているから女子からも男子からも人気があるわけで…… ……だからって、私は好きにはなれないけど。 そのあともちびちびと酒を飲んでいたらいつの間にか寝てしまっていた。 夕方、サイレンの音で目が覚めた。 この音って消防車?なんか近い…… どこだろうと思いベランダに出ると焦げ臭い匂いが充満していた。 周りを見渡して腰が抜けそうになった。アパートの相澤先生の部屋から煙がもくもくと出ていたからだ。 うそでしょっ……… 「相澤先生っ!相澤先生─────っ!!」 大声で呼んだが反応は無かった。 携帯を鳴らしたけど出ない。どうしよう…… ……相澤先生、徹夜したって言ってたからまだ寝てるのかもしれないっ!! 部屋から飛び出て階段を駆け下り、アパートに入ろうとしたところを消防隊員に止められた。 「火元に知り合いが居るんです!早く助けてあげないと!」 「火元俺ん家の隣のじいさんなんだけど、知り合いなの?」 へっ……… 振り向くと相澤先生が普通に立っていた。 聞けば相澤先生は火事にすぐ気付いたらしく、隣のおじいさんを助け出して一緒に逃げたらしい。 火元だったおじいさんの部屋は全焼してしまって一時は激しく燃え盛っていたが、もうだいぶ前から下火にはなっているそうだ。 すぐ隣のマンションなのにこの大騒ぎに寝ていて全く気付かなかった…… 自分のところだったら間違いなく逃げ遅れてたな…… 「良かったあ…私、てっきり……」 「ちっとも良かねえわ!」 相澤先生の部屋も一部焼けたし放水で水浸しになったらしい。 電化製品は全部おじゃんだし、とても住めるような状態ではないそうだ。 しかも、全財産が入っていた財布が焼けたのだという…… といっても数万円らしいが……貯金しろよ。 「小さい頃から愛用してた抱き枕のイルカが燃えたのが一番ショックだわ。俺あれがないと寝れねえんだよ。」 なんか可愛いことカミングアウトしてる…… 聞かなかったことにしよう。 「それは災難でしたね。」 「なんだそれ。随分他人事だな。」 いや、他人事だし。 そう言えば私、部屋のカギが開けっ放しだ。 慌てて帰ろうとしたら後ろから肩をむんずと掴まれた。 「マキマキ、しばらく泊めてくれ。」 ……はい? 真面目な顔してなにを言っているんだこの男は…… 「相澤先生、彼女いるんですよね?」 「あんなもん嘘に決まってんだろ。」 「ご家族は?」 「家族も頼れる親戚もいねえ。」 「お友達は?」 「遠い。」 「大家さんに頼んでみるとか?」 「隣のじいさんが大家だったんだよ。」 「じゃあ桜坂高校の先生の誰かは?」 「だからおまえに頼んでんだろ。」 あーっなるほどなるほど…って違う違う! どう考えてもおかしいだろっ?! 「カプセルホテルとか漫画喫茶とかいくらでも泊まれるとこなんてありますよねっ?!」 「金がねえ。てか早く戻った方が良くね?ポッチ見えてる。」 きょとんとする私の胸の部分を相澤先生は指さした。 そう言えば私…すっぴん、アーンド、ノーブラ……… 「きゃ────────っ!!!」 「うっせえ!いきなり叫ぶなっ!!」 結局、逃げ帰る私にくっ付いてきた相澤先生は私の家に泊まることになった。 なんなのこの男…… 勝手に棚に置いてあったカップ酒飲んでるんですけどっ! 「しかしおまえんとこ広いな。親が金持ちなのか?」 「いえ、元々ここは……」 幼なじみのなっちゃんとルームシェアをする予定だった。 なっちゃん、引越しする直前に彼氏が出来てそっちと同棲しちゃったんだよね…… だから部屋だって余ってるし、折半だった家賃も一人でどう払っていこうかと頭が痛い。 ルームメイトを募集中なのだが…… 「……し、親戚ので安く借りてるんです。」 そんなことを今の状況の相澤先生に言えるわけがない。 こんなデリカシーのない男。今日泊まらせるのだってすっごく嫌なのに…… 「マキマキ、俺もうクタクタだから布団敷いてくれる?」 「えっ?客用の布団なんてないですよ。」 …………………… なにがどうしてこうなった?! なんで知り合って二週間も経たないような男とひとつしかない布団で寝るはめになってるのっ?! 「流石にこれはまずいですよ相澤先生っ!」 「なにが?おまえ俺の事襲うつもりなの?」 「この場合襲うのは男性側です!」 「安心しろ。それは無い。」 相澤先生は私に背中を向けて横になった。 キッパリ言いやがってコノヤロウ〜っ…… 私も背中を向けて相澤先生の横に並んだ。 後ろで寝てるのは男じゃねえ。てか人間じゃねえっ。 人の皮を被ったムカつく物体だっ!毒舌妖怪だ!! 「マキマキ、ひとつ確認。おまえ彼氏いるわけないよな?」 なにが確認だっ?決定事項のように言ってんじゃねえか! その通りなんだけど!! ああもうっ! こんな状況でうら若き乙女が寝れるわけがないっ!! ──────三分後。 くか〜。 「マジかこいつ…一瞬で寝れるんだな……」 相澤先生は呆れた様子で私の寝顔を指でツンツンとした。 私…凄ぶる寝つきが良くて一度寝たら朝までぐっすり起きないんだよね…… 「危機感無さすぎ。」 自分でもそう思います…… こうして私と相澤先生の奇妙な同居生活が スタートしたのだった─────────
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