過去への懺悔

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過去への懺悔

終業式あと───── 私達は学校の情報処理室に籠城した。 「玉置さん、相澤先生が少年院には入っていない証明はどうやってしますか?」 「入所してたとされる期間の相澤先生の画像を、友達関係の中からも辿って拾い集めてみて。」 「玉置さん、女子生徒に手を出してるってのはどう否定したらいいですか?」 「そのレスした人のアカウント見つけた。ダイレクトメッセージでソース(情報源)がどこだか聞いてみて。嘘だろうから訂正文書かせる。」 「なんだこれ…玉置さん、相澤先生は足が超絶に臭いってのがあるんですけど……」 「そんなの放っておいていいよ。もっと悪質性の高いのを集めて。」 玉置君……凄いな。 パソコン部の人達だって学年で上位に入るくらいの優秀な子達ばかりなのに、その15人を完全に仕切っている。 桐ヶ谷先生にまで指示を出してるし…… 普段はやる気ゼロでサボってばかりなのに、一旦スイッチが入った時の集中力って神がかってるんだよね。 「たっだいま〜寒〜っ。北区は全滅。相澤先生の影すらなし!」 教室の扉が開いて菊池君が震えながら入ってきた。 菊池君は行方不明となった相澤先生を見つけるために街中を探し回ってくれていた。 「じゃあ次は南区行ってきて。はいこれ行きそうな場所のリスト。」 「玉置…てめえは人遣いが荒いな。ちょっとは休ませろ。」 菊池君に温かいお茶と家庭科室で作ったおにぎりを出してあげた。 相澤先生の電話は昨日から電源が切れたままだった。 相澤先生…昨日はどこに泊まったんだろう…… ご飯、ちゃんと食べてるかな…… まだ近くでウロウロしているのかな…… ひょっとしたらもう、二度と会えないくらい遠くに行ってしまったんじゃないだろうか────── 「マキちゃん。そんな顔しないの。」 菊池君は私の頭をぽんぽんとした。 ダメだな私…また泣きそうになっている。みんながこんなに頑張ってくれているのに。 「菊池君、南区には私も一緒に探しに行ってもいい?」 「マジで?マキちゃんとクリスマスデート出来るなんてすっげえ嬉しい。そのままどっかでお泊まりしちゃおっか?」 菊池君はわざとおどけたことを言って、落ち込んでいる私を励ましてくれた。 「真木先生はダメ。」 コートを着ようとしたら玉置君からストップがかかった。 「玉置君なんで?私ここにいても役には……」 「もう外は暗いしリストには女性じゃ入りにくい店もあるから。なにより、滑って転んで怪我しそうだ。」 確かにこの寒さで路面は凍結しているけれど…… 玉置君の私へのイメージって、一体…… 早くひとりで行ってきてと言う玉置君に、菊池君は親指を下に向けてブーイングをしてから出て行った。 その様子を見ていた桐ヶ谷先生がクスクスと笑った。 「真木先生もいろいろと大変ですね。コーヒーを入れて頂いても宜しいですか?」 「えっ?あ…はいっ。」 私は別に大変ではないのだけれど…… 仕方がない、私は私の出来ることをしてみんなを支えよう。 大方のデマがなんとか訂正し終えた頃には夜が明けていた。 拡散されてしまった多くのサイトやサービスにも、訂正記事が掲載されるようになり、あれだけ荒れていたQちゃんねるでも相澤先生に肯定的なレスが大多数を占めるようになった。 学校のみんなが実名で相澤先生の人となりを語ってくれたことが、とても力強い追い風となったのだ。 ただ…… 朝になって菊池君がヘトヘトになって帰って来たのだが、相澤先生の行方は依然としてわからないままだった。 「くっそ、コイツ…しつこいっ!」 玉置君がさっきからずっと画面に向かってブツブツと文句を言っている。 炎上するにあたって特定厨や特定職人より怖い存在がいる。 それは、知り合いと呼ばれる人からの情報提供だ。 ────橘は被害者なのに事件のあとに何も言わずに他県の女子高に編入したのは何故か。桐生会に脅されたからだ。 ────ヤクザの息子なのを黙ってたのはみんなを欺こうとしてたからだ。バレたから逃げた。それだけ。 嫌なところを突いてくる…… 本当の情報を織り交ぜてくるから実に厄介だ。 玉置君が言うには、10年前の緑ヶ丘高校の裏サイトで相澤先生への根も葉もない噂をでっち上げたのもコイツ──菅原(すがわら)(たもつ)らしい。 「多分、橘って子のこと好きだったんじゃね?相澤先生を相当恨んでるっぽいよね。」 菊池君が菅原のレスを見て分析した。 玉置君がこちらにも当時の関係者がいることを伝え、これ以上嘘をばらまくなと忠告した。 ────それってムッチーだよね?桐生と今も繋がってるような人がいう証言なんて信憑性ないっしょ? 「こんのっ…野郎……!!」 玉置君が苛立ちのあまり近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした。 一人ぐらい放っておいてもいいんじゃないかと思うのだが、Qちゃんねる上での炎上騒ぎのほとんどが、実行犯と呼ばれるような人は5人位しか居らず、たった一人しかいないという場合も珍しくないのだという…… ここで菅原をなんとかしておかないと、また相澤先生に対して同じような炎上騒ぎが起きかねないのだ。 「玉置君、昨日からなんにも食べてないよね?おにぎり食べる?」 「要らないよ!真木先生ってなんでそんなに呑気なの?!」 眉毛を吊り上げた玉置君に怒鳴られてしまい、思わず顔がニヤけてしまった。 「……真木先生…そこ、笑うとこ?」 「だって最近の玉置君て色んな表情見せるようになってきたでしょ?だから嬉しくて。」 「はあ?なに言って……」 「ほら、今も赤くなってる。」 指摘するとますます赤くなり、目じりを下げて困ったような表情を見せた。 「こんなの…真木先生にだけだよ。なんでわかんないかなあ。」 ああもうっと言いながらキーボードを叩く玉置君の肩を、菊池君がポンと叩いた。 「玉置、そのへんのことはマキちゃん壊滅的に鈍いから。とりあえず食っとけ。マキちゃんのお手製おにぎり。」 「……わかってる。有難く頂いとくよ。」 菊池君と玉置君がおにぎりを食べながらうなずき合っている。 なんなんだろう…この二人の妙な連帯感は。 仲が良いのか悪いのか…… 様子を見ていた桐ヶ谷先生がまた、大変ですねえといいながらクスククスと笑った。 371a6594-62a1-4b5b-b278-bbabd7658191
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