熱い雪の夜

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「やっぱり無理ですっ一緒になんて!」 「バスタオル巻けばいいじゃん。」 「相澤先生も巻いて下さいっ!」 「俺そんなの気にしないけど?」 「私が気にするんです!!」 チェッと舌打ちしながら相澤先生は腰にタオルを巻き、先に待っとくと言ってバスルームへと入って行った。 直ぐ脱ぐ癖のある相澤先生の裸は今まで何回も見てきたけれど、これからコトをするのだと思うとどこを見ていいのやら意識せずにはいられない…… にしても、バスルームも大きかったな…… チェックインは済ましてあるというので相澤先生に付いて行くと、最上階の広々とした部屋に案内された。 ベッドルームだけじゃなくてリビングまである。 大きな窓からは外の景色が一望でき、ウェルカムドリンクとしてシャンパンまで用意されていた。 まさかスウィートルームを予約していただなんて…… 感動を通り越して固まってしまった。 もっと可愛くすごーぃとか言って喜ぶんだったなと反省した。 本当はHの前に一緒にお風呂だなんて恥ずかしくて倒れそうなのだけれど…ここまでしてくれている相澤先生の誘いを無下には断れない…… バスタオルをギッチギチに巻き、相澤先生からなるべく離れて湯船に浸かった。 相澤先生がジェットバスのスイッチを押すと、泡風呂入浴剤の入ったお湯からバブルがブクブクと膨らんできた。 なにこのふわふわ感。思った以上にテンションが上がるっ。 「何もしないから俺の前においで。」 相澤先生が両手を広げて私を呼んでいる…… 公衆の面前であんなキスをするような人の何もしないからなんて言葉は信じられない。 もう十分キャパオーバーなのに……相澤先生に少しでも触られたらきっと一気にのぼせてしまう。 何度呼んでも来ない私に、相澤先生は拗ねたようにあっそ。と言うと、頭までお風呂に潜った。 「ちょっ…相澤先生!なにやってるんですか?!」 泡が濃くて相澤先生がどこにいるか見えないっ。 目の前に相澤先生が浮上してきて、イタズラっぽい笑みを浮かべた。 「来ないから俺が来てやった。」 相澤先生の手が私へと伸びてくる…… お、襲われる!と思ったのだけれど水鉄砲を顔面にぶしゃあとかけられた。 「小さい頃に風呂場でこれやらなかった?」 手で水鉄砲……やったけど……… 今ので化粧が完全に剥がれたよね……? コノヤロウ…… 「相澤先生下手くそですね。私の方が上手いですよ?」 負けじと相澤先生の顔面にやり返してやった。 兄弟の中で私が一番遠くまで飛ばせたのだ。 「今のは手加減してやっただけだから。」 「それは聞き捨てなりませんね。」 お互いムキになってきて、最後は風呂桶を使ってバシャバシャとお湯をかけまくった。 「やっぱマキマキといると楽しいわ。」 「相澤先生が子供なんです!」 スウィートルームでなにやってんだか。 おかしくって二人してゲラゲラと笑ってしまった。 「覚えてる?俺らが始めて会った日のこと。」 ……覚えてるもなにも、忘れられるわけがない。 私が教師として初めて桜坂高校に登校した日。 菊池君が蹴ったボールが顔面に当たって気絶した私を、相澤先生が保健室まで運んでくれたんだ。 「おまえ寝言でさあ、自己紹介してたんだぜ?すげえ面白いやつが来たって笑ったわ。」 念願叶って教師になれた私は、晴れの舞台に緊張しまくりで前日から練習していたのだ。 まさか寝言で言ってただなんて…… あれ?じゃあ相澤先生はあの時私のこと…… 「私が新任教師だってわかってて、見学に来た中学生だとか言ったんですか?」 「そんなこと言ったっけ?」 「言いましたよ!!」 私だって自分が年齢よりかなり幼く見えることはわかっていた。 だから雑誌を見て大人びたメイクを研究したし、長かった髪もバッサリ切ったんだ。 あの一言にどれだけ傷付いたか…… 思えばその出来事があったから相澤先生の第一印象は最悪で、ずっと毛嫌いしてたんだ。 「あー…多分それ照れ隠しだわ。」 相澤先生は恥ずかしそうに頭をかいた。 「だって俺……そん時からこの子、俺のこと好きになんねえかなって思ってたもん。」 ……相澤先生……… 「スキあり!」 顔面にぶっしゃあ!っと水鉄砲をかけられた。 ……もうっ、相澤先生は…… 私は湯船に浸かる相澤先生の前にくっつくように座った。 「今はすっごく大好きですよ?相澤先生は、みんなからも凄く愛されてます。」 みんなが相澤先生に学校に戻って来て欲しくて、どれだけ頑張っていたかを見せてあげたかった。 それに────── 相澤先生の背中に手を回してギューッと抱きしめた。 「私は絶対に…相澤先生から離れませんから。」 もう二度と、相澤先生を一人っきりなんかにさせない。 学校でも家でも…… これからもずっと、ずう──っと…… 当たり前のようにそばにいたい。 お湯で濡れてるせいだろうか…… 相澤先生の肌の感触が直に伝わってきた。 温かいな…相澤先生…… 「……マキマキ…おまえ気付いてないかも知れねえけど、さっきからバスタオル落ちてるからな?」 えっ…… 思わず相澤先生からパッと離れたら丸見え状態だった。 「キャ───────!!」 「裸で抱きつくならベッドでやってくれる?」 真っ赤になっている私を相澤先生がお姫様抱っこして湯船からざぱあっと持ち上げた。 嘘でしょお?!! 「ななな何するんですが相澤先生っ?!」 「このままベッドまで運ぶ。」 「下着!下着つけさせてください!!」 「そんなの要らねえだろ。すぐ脱ぐのに。」 「のっけから真っ裸はイヤです!!」 「今更カマトトぶるなよ。処女じゃあるまいし。」 「処女ですから!!」 「そうだっけ?」 「もうっ!相澤先生っ!!」 なんとかお願いして下着を着ける許可をもらった。 私が初めてだからと凄く気を遣ってくれてホテルまで予約してくれたのに…… 同じ人物の行動だとは思えない。 真っ裸でお姫様抱っこなんて…… 死ぬほど恥ずかしかった。
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