白き薔薇と深紅の薔薇

1/1
前へ
/129ページ
次へ

白き薔薇と深紅の薔薇

それは突然のことだった。 「椿姫様!た、大変でございます!」 椿姫の部屋の扉をノックなしに開いたのは雪絵だった。使用人としてあるまじき行動をとる雪絵に、椿姫の横で紅茶を注いでいた茂子は渋い顔をした。雪絵はその顔にびくついたが、椿姫は気にしていないようで雪絵に先を即させた。雪絵はそのまま先の言葉を紡いだ。 「……月島のお嬢様が、いらっしゃっております」 ────ガッシャーン ガラスのティーカップが真っ白な大理石の床に落ちた。もちろん落としたのは茂子ではない。椿姫だった。 「……月島、月島ですって?」 「奥様、いけません!血が!」 椿姫の手からは鮮血が滲みでていた。幼い時から椿姫に仕える茂子だが、椿姫の身体から血が出るところなど、茂子は数えるほどしか見たことが無かった。 白くたおやかな手からポタリポタリと血の滴が落ちていく。 そのたびに茂子の顔色が悪くなっていく。 「……どういたしますか?旦那様に一度連絡をして」 「……」 椿姫は雪絵を睨んだ。 「椿姫様……」見かねた茂子が声をかけるのを無視して、椿姫は血の流れる手を見てうっとりと微笑んだ。 「本当は、わたくしが会ってさしあげるなど、ありえないですけれど」 椿姫はそこまで言うと、顔を青ざめさせる雪絵と茂子に向かって次は艶美に言葉を紡いだ。 「ここに来たこと後悔させてあげますわ」 女王の風格。まさしくその通りの言葉と表情だった。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1602人が本棚に入れています
本棚に追加