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白き薔薇と深紅の薔薇
それは突然のことだった。
「椿姫様!た、大変でございます!」
椿姫の部屋の扉をノックなしに開いたのは雪絵だった。使用人としてあるまじき行動をとる雪絵に、椿姫の横で紅茶を注いでいた茂子は渋い顔をした。雪絵はその顔にびくついたが、椿姫は気にしていないようで雪絵に先を即させた。雪絵はそのまま先の言葉を紡いだ。
「……月島のお嬢様が、いらっしゃっております」
────ガッシャーン
ガラスのティーカップが真っ白な大理石の床に落ちた。もちろん落としたのは茂子ではない。椿姫だった。
「……月島、月島ですって?」
「奥様、いけません!血が!」
椿姫の手からは鮮血が滲みでていた。幼い時から椿姫に仕える茂子だが、椿姫の身体から血が出るところなど、茂子は数えるほどしか見たことが無かった。
白くたおやかな手からポタリポタリと血の滴が落ちていく。
そのたびに茂子の顔色が悪くなっていく。
「……どういたしますか?旦那様に一度連絡をして」
「……」
椿姫は雪絵を睨んだ。
「椿姫様……」見かねた茂子が声をかけるのを無視して、椿姫は血の流れる手を見てうっとりと微笑んだ。
「本当は、わたくしが会ってさしあげるなど、ありえないですけれど」
椿姫はそこまで言うと、顔を青ざめさせる雪絵と茂子に向かって次は艶美に言葉を紡いだ。
「ここに来たこと後悔させてあげますわ」
女王の風格。まさしくその通りの言葉と表情だった。
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