感情の重さ

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感情の重さ

「…あの、麗花様?」 考え込んでいると、茂子が怪訝そうにこちらを見つめていた。 「茂子、覚えているかしら?私が利史様に惹かれた理由」 「覚えておりますとも。お嬢様はことあるごとに言葉になさっていましたから」 麗花が、利史に惹かれた理由。それは言葉にすれば埃のように軽いが、隠された意味は重く深いものだ。綺麗な言葉を並べると「その瞳に宿る悲しさに惹かれた」ことが、麗花が利史に惹かれた理由。どこぞの恋愛物語に出てくるありきたりな理由なのかもしれない。けれど麗花にとって、それは確信めいた理由であって決して恋に溺れて発した台詞ではないのだ。付き合っていた頃は、その寂しさがどこから来るものなのか分からなかったけれど、少し離れて客観的に見ていればおのずと答えは導き出される。それからは余計にその言葉の重みが増した。 「感情が飽和状態なのよ、あの方は…少なくとも、私は幼い頃からおじい様に大切にされてきた。己の感情を表現することになんの躊躇いもないから、最初から理解することが難しかった」 麗花の言う事が分からず、茂子は首を傾げる。
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