火曜日 午後

2/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
目をあげると、すっかり暗くなった空をも埋めるような街の光。視界の端には、新発売と謳う広告に、目を輝かせて引き寄せられていく人たち。彼らの目は何を見ているのだろうか。僕には分からない。 知らぬ間に自在に操られ、いつまでたっても自分が縛られていることにすら気づかないなんて妙な話だ。僕はそんな踊りをしたいとは思わない。それだけのこと。 いや、それは今僕がここで歩いていることの理由にはならないな。塾から遠ざかるように足を進めている理由には。 目の前の信号が青に変わった。ゴチャゴチャしたネオン、目を射抜く車のライト、もう二度と会うことも…… いや、何回すれ違ってもお互いを知ることはないだろう人達、僕も混じって流されていく。 目の前で酔った男が転んだ。干からびた指が宙を掻き、糸が切れたように崩れる。目を伏せてその横をすり抜けた。助け起す役目は、連れの女にでも任せておけばいい。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!