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いい気分になってるんじゃねえぞ。
結局、帰る場所なんてあの狭い家しかないと言うのに。
「ふぅ……」
溜息が一時の浮かれた気分を完全に終息させた。冷静になってみれば、見慣れな都会の風景と人混み。
「……帰ろう」
踵を返し、今しがた渡った交差点に向き直る。四月の中頃。溜息はそれまで感じていなかった風と寒さをも僕に思い出させた。
疲れ切った高校生に見えるんだろうな、今の僕。大きいいかにも勉強用のバックをぶら下げて、冷えた顔は車の光に照らされて真っ白に見えるんだろう。さっき転けた男の横で縋るような目をした女、今しがた目があった女子高生の目に映る自分を想像する。
まぁ誰も目下の現実から逃げようとしたが諦めた力のない高校生、とまでは分からないだろうけど。この界隈で赤の他人のことを考える奴なんていない。
自嘲の笑みを浮かべてみた。
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