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咲也は私をじっと見つめ、少しの間をおいて言った。 「結婚しよう。」 …え? 今なんて言った? 結婚…? あまりに驚いて声が出ない。 目を丸くして咲也を見つめていると、咲也はもう一度言った。 「俺たち、結婚しよう。」 「け…結婚?なんでこの状況でそんなこと言えるの?私たち、今別れ話してたんだよ?」 「俺は別れたくないって言っただろ?」 「だからってなんで結婚?おかしいよ、咲也。」 「おかしいかな。でも、他に美桜を繋ぎ止める方法を思い付かない。」 「私がはいそうですかって結婚すると思うの?」 「思う。」 「やっぱりおかしい。どうしてそんな発想になるのよ。意味が分からないよ。」 「俺はずっと結婚するなら美桜しかいないと思ってた。いつかプロポーズするつもりだった。さっき別れ話されて、もう今しかないって思ったんだ。」 「プロポーズって…結婚したいほど私のこと想ってくれてたなら、なんで浮気なんてするのよ。それで私の気持ちが離れるとか考えなかったの?」 「それでも俺が愛してるのは美桜だけだから。誰と遊んでても最後には美桜のところに帰りたいと思ってた。それが結婚したいってことなんだと思う。」 そう言って、咲也は私に手を差し伸べた。 そんな勝手な… そう言おうとして、その言葉を飲み込んだ。 ー最後には美桜のところに帰りたいと思ってた それは、私がずっと思っていたことだ。 幾度となく繰り返される浮気を、その度に許せてきたのは、どんなに回り道をしても最後には私の元に咲也は帰ってくると信じられたからだ。 たくさんの遊び相手の中で私が一番なんだと思えるのが、自分がたくさんの咲也を想う女の人たちの中で一番優位に立てているという優越感が、ギリギリのところで私を支えていた。 浮気癖は治らない。 咲也と結婚したって、幸せになんかなれるわけがない。 それが分かっていても、咲也が差し伸べるこの手を、私は振り払うことができるのだろうか。 ダメだ… 私はきっと、またこの人に傷つけられて、ボロボロになる。 そう思うのに、私の手は勝手に動いて、咲也の手を取ってしまった。
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