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「それで?友永には会いに行ったの?」 私は静かに首を横に振った。 「どうして?離婚したのに?友永に連絡しなかったの?」 「…しようとしました。でも、私、前の携帯を解約してしまって、惣太郎の連絡先も分からなくなってたし…」 「でもそんなのどうにでもなるでしょ。会社の名前は分かってるんだから会社に問い合わせるとか。ああ、それに、香織に聞けばいい。香織に俺に連絡させればよかったんだ。あ、香織の連絡先も消えてたのか…。」 「…はい。でも、香織ならまだあの会社にいるでしょうから、会社に電話すればすぐに連絡は取れてたと思います。」 「なら、なんで…。」 「………できなかった。あんな一方的に別れを告げて、他の人と結婚して裏切ったのに、どの面下げて会いに行けるの?」 惣太郎に別れを告げてから、もう1年が経っていた。 惣太郎は怒っているだろうか。 私のことなんて忘れてしまっているかもしれない。 もう、他の誰かと一緒にいるかもしれない。 でも、それならそれでいい。 惣太郎がそれで幸せならば。 惣太郎が毎日笑っていられるなら、隣にいるのは私じゃなくてもいい。 「そう思えるまでには、少し時間がかかりましたけど…。そう思えるようになってからは、むしろ今更惣太郎に会いたいなんて思っちゃいけないんじゃないかって思うようになって。私の知らないところで惣太郎が幸せでいるのなら、その幸せを邪魔しちゃいけないって……。」 「なるほど…ね。でもさ、それって結局、君の独りよがりだよね?」 「…え?」 「どうして、友永が君以外の人と幸せにやれてるって思うの?」 「そ、それは…。」 「どうして、今でもアイツが君のことを待ってるとは思わないの?」 「そ、そんなことあるわけない。だってあれから2年も経ってるのに…。」 「歩美ちゃんが亡くなってから、アイツはずっとドン底から這い上がれないでいた。暗い暗い泥の底で、もがく事もなくただ静かにそこにいたんだ。俺たちはアイツをその場所から引き上げることができなかった。ただ、見守ることしかできなかった。そこに現れたのが君だ。君はいとも簡単にアイツをドン底から引き上げた。アイツの手を掴んで、ヒョイってね。そんな君のことを、アイツがそんな簡単に忘れると、本当に思うの?」 いつの間にか、平岡さんの顔がボヤケている。 私の目には、涙が今にも溢れそうなほど溜まっていた。 その涙を留めておくことが限界になって、瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。  「じゃ…じゃあ…もしかして…惣太郎は…」 「きっと、今でも君のことを思って一人でいるはずだよ。」 私は、もう何も言えなくなった。
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