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「友永は今、カナダにいる。半年前かな、カナダに移動になったのは。」
「カナダ…」
「うん。カナダのバンクーバーにね。移動が決まったとき、アイツは君と連絡を取ろうとしたんだ。もし君がローマに戻ってきたときに自分がローマにいなかったら困るからって。でも電話は通じないことはとうに分かってた。君の電話が解約されてからも何度もかけていたからね。それで、俺に香織に連絡するように頼んできた。でも俺は止めたんだ。香織から、君が前の彼と結婚したことを聞いていたから。友永にもそう告げた。そしたらアイツ、なんて言ったと思う?」
私は下を向いたまま首を横に振った。
「今の君と全く同じことを言ったんだよ。俺の知らないところで、美桜は幸せにやってるのか。よかったって。笑ってた。」
そう言って笑う惣太郎の顔を思い浮かべてみる。
胸が熱くなる。
涙が益々溢れてくる。
そんな私を見て、平岡さんはスマホを取り出して何やら操作し始めた。
「俺もね、友永の移動と同じ時期に日本に移動になって帰ってきたんだ。
だから友永とは今はあんまり連絡が取れてないけど…ああ、あった。」
スマホの画面を見ながら、鞄からメモ紙を取り出して何かを書いて私に渡してきた。
「はい、これ。」
メモを覗くと、そこには英語で書かれた住所のようなものと、その下には電話番号が書かれていた。
「友永の住所と電話番号だよ。気が向いたら電話してあげたら?それともサプライズでカナダまで会いにいく?」
そう言って、ちょっとイタズラっぽい笑顔で平岡さんが笑った。
「じゃあ、もう仕事に戻らないといけないから、行くね。」
「あ、あの!」
「ん?」
「あの…ありがとうございました。なんか、目が覚めたというか…」
「君たち、似た者同士だよな。アイツはいいやつだから、俺はアイツに幸せになって欲しいんだ。それには今でも君が必要だって信じてる。だから、頑張って。」
「はい…。」
「あ、そうだ。真由も君のこと心配してたんだ。今日俺が君と会ったって言ったら、きっと歓喜するだろうな。」
「真由さん、お元気ですか?真菜ちゃんも大きくなったんでしょうね。」
「ああ、二人共元気だよ。それとね、もう一人男の子が生まれたんだ。」
「え?そうなんですか?わあ、おめでとうございます。」
「ありがとう。よかったら真由に連絡してやってよ。」
そう言って、さっきのメモ用紙にもう1つ電話番号を書き足した。
「真由の番号。」
「はい。必ず連絡します。ありがとうございました。」
「うん、じゃあまた。」
そう言い残して、足早にカフェを出ていく平岡さんを見送りながら、自分の中に新しい風が吹き込んでくる音が聞こえてきた気がした。
平岡さんがくれたメモを鞄にしまい込むと、私もカフェを出た。
外はさっきとは違う空気に感じる。
私は、新しい何かに向かって、新しい一歩を踏み出そうとしているんだ。
そう思いながら、歩き出した。
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