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私の叫ぶ声を聞いて、惣太郎はピタっと足を止めた。 リードを引っ張る惣太郎の足が止まって、不思議そうに惣太郎の顔を見上げるチェリー。 でも、惣太郎は振り向かない。 今度は惣太郎が固まってしまった。 惣太郎 会いたかったよ あの時はごめんね 今までずっとごめんね 会いに来たよ 心の中には言葉がどんどん溢れてくるのに それらの1つも声に出すことができない 日が沈み出して、だんだんと辺りがオレンジに染まっていく そして、私の視界に入る惣太郎が、ボヤケて見えなくなってくる いつの間にか、私の瞳には涙が溢れ出ていた その涙を拭うこともせず、ただただそこに佇む 何か言わなきゃ 声に出して思いを伝えなくては そう思うのに、一向に声が出ない 海から吹く風が、頬の涙を揺らす 惣太郎 こっち向いて 顔を見せて やっぱり怒ってる? 振り向きたくないくらい 私を憎んでる? 何故ここまで会いに来たんだって思ってる? それを確かめたくて 私はなんとか声を振り絞ってもう一度惣太郎の名前を呼んだ 「惣太郎…?」 よく見ると、惣太郎の肩が少し震えている そして、惣太郎はゆっくりとこちらに振り返った 夕日に染められたオレンジに光る顔 懐かしい 愛しい 愛しい人 惣太郎も泣いている その表情を見て 私は惣太郎の思いをすべて受け取れた気がした 会いたかった 俺も 美桜に とても会いたかった そこにあるのは 私たち二人の  お互いを想い合う 愛しいという気持ちだけ 久しぶりだねとか あのときはごめんねとか 少し痩せたねとか 日に焼けたねとか 犬飼い始めたんだねとか チェリーって名前なんだねとか そういうのはもういい 言葉なんていらないんだって 振り返った惣太郎の顔を見てすべてが吹っ飛んだ 惣太郎も泣いている 悲しんでいるわけでもなく 怒っているわけでもなく ただただ 私のことが愛しくて愛しくてたまらないという涙だってことが伝わってくる 惣太郎がゆっくりと私に近づいてくる 私も、一歩一歩足を前に進め始め 時間をかけて私たちはお互いの元に辿り着いた 私たちは 泣きながら 笑っている そして 2人はようやく 出会った   運命だったんだ いつか、ローマで惣太郎が言った言葉がどこからか降ってくるように聞こえた気がした 私たちの物語は ここから始まるんだ
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