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私は大畑美桜。 27歳。 都内の商社に努めて4年になる。 そこそこの4大を出て、そこそこの会社に就職して、そこそこの仕事をしてきた。 割と順調な人生だった。 入社2年目に恋人ができた。 同じ部署にいた2つ上の先輩の、山本咲也。 私が入社して一番最初に声をかけてくれたのが咲也だった。 社会人になりたてでガチガチに緊張していた私を、冗談を交えた軽快なトークでほぐしてくれた。 最初はただただ、面白い先輩だなとしか思っていなかった。 誰にでも分け隔てなく優しくて人懐っこい彼を、「いい人」だと思っていた。 そんな私たちの始まりはごくごく普通で、会社の忘年会で飲み過ぎて酔い潰れた私を介抱して家まで送ってくれて、そのまま私の部屋で二人で朝を迎えた。 よくある話だ。 そのままなんとなく付き合うことになった。 始まりは平凡でも、私たちは順調に愛を育んだ。 私はちゃんと彼を愛したし、彼も私をちゃんと愛してくれた。 そう思っていた。 少なくとも私は。 付き合いも1年を過ぎると、相手への不平不満はどんどん降り積もっていった。 「ねえ、咲也。先週営業部の女の子たちと飲みに行ったって本当?」 「え?ああ、うん。行ったよ。」 「それ、聞いてなかったんだけど。今日営業の同期の女の子から聞いてビックリした。」 「営業の美桜の同期って…ああ、東山さん?あれ?あの日東山さんいたっけ?」 「そう、東山香織。香織はその日行ってないけど、営業部の中でその飲み会の話を後輩がしてるの聞いて私に教えてくれたの。」 「ふーん。女の子たちの情報網は凄いな。」 「感心してる場合?なんでそんな飲み会行ったの?香織が言ってたよ。その飲み会、男は咲也一人だけだったって。」 「別に行きたくて行ったわけじゃないよ。たまたま会社出たところでその子たちに捕まって連行されたの。」 「だからってノコノコ着いてくことないでしょ。」 「はぁ…、何をそんなにカリカリしてるんだよ。別に俺が誰と飲みに行こうが勝手だろ?」 「そうだけど…」 「最近なんか口うるさいよ、お前。」 最近咲也は私をあまり大事にしてくれないよね。 そう言い返そうとしたけど、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。 咲也は誰にでも分け隔てなく優しくて人懐っこい「いい人」だ。 だからこそ、彼を好きになってしまう女の子も多く、私は常に彼の周りを監視するかのように鋭い視線を投げ掛けていなくてはいけなかった。 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、女の子の誘いに軽く乗ってしまう咲也。 軽い浮気も何度かあったりで、その度に傷ついて別れを決意して、それでもやっぱり好きだから別れたくないとすがり…を、幾度となく繰り返していた。
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