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「ねえ、美桜。最近咲也さんとうまくいってる?」
二杯目の生ビールをひと口飲んで、一呼吸置いた香織が言いにくそうにそう切り出してきた。
私たちが選んだ店は、以前よく同期の仲間で利用していた会社の近くの創作居酒屋だった。
年末ということもあり店内は混んでいて、客同士の話し声や店内を忙しく動き回る店員さんの「いらっしゃいませー!」「ありがとうございましたー!」などの掛け声で、かなりの喧騒に包まれていた。
「うーん、うまくいってる…と思う。多分…。」
「なにそれ。すごく自信なさそうに言うじゃん。」
「うーん…なんかね、最近はあんまり自信ないかも。咲也、またなんか怪しいんだよね。」
「怪しいって?また女?」
咲也はこれまでも何度か他の女の子と怪しい噂があった。
二人でいるときに別の女の子からメールが来たり電話が来たりということも少なくない。
それは完全に浮気だろと、言い逃れできない状況を目の当たりにしたこともあった。
でもそのたびに、うまく言いくるめられたり、私が我慢して事なきを得てきた。
最近の咲也も、また悪い癖が出てきたときの顔をしている気がしていたところだった。
「なんとなくの勘…としか言えないんだけどさ。何度も経験してるから、あ、これはまた?かもなぁって。」
「なんで別れないの?」
「え?なんでって…」
「そんな浮気男、普通別れるでしょ?なんで美桜は別れないのかなって不思議で仕方ないんだよね。私だったら1回目でアウトだよ。」
「そうだよね…」
香織が言ってることはもっともだ。私だってそれは分かってる。
今まで別れを選ぶ場面はたくさんあったはずだ。
でも今でもまだ私は咲也と一緒にいる。
どうして?
なんで別れないの?
それは、私自信がずっと自分に問いかけてきたことだ。
私にも理由が分からない。
なぜこんなにも咲也に拘るのか。
なぜ離れられないのか。
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