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「あのね、美桜。今から話すことは私も人から聞いたことなんだけどね。でも一応美桜の耳に入れといたほうがいいと思うから、よく聞いてね。」
「うん?なんの話?」
「咲也さんの話。」
香織の表情があまりに真剣だったので、途端に緊張してきて、思わず生唾をゴクリと飲み込んだ。
香織が話し出す前から、もうイヤな予感しかしなかった。
なんとなく、姿勢を正して香織の次の言葉を待った。
「咲也さん、また浮気してるよ。」
「え…?」
「美桜の勘は当たってる。最近またなんか怪しいんでしょ?」
「うん…。でもなんで?誰に聞いたの?誰がなんて言ってたの?」
「うちの課の後輩がね。咲也さんが美桜じゃない女の人と二人で歩いてるのを見たんだって。すごく仲良さそうに寄り添ってたって。その後輩、咲也さんと美桜が付き合ってるの知ってるから、美桜以外の女の人と歩いてるの見てビックリして、あとを付けたらしいの。」
咲也が私の知らない女の人と歩いているところを想像して、胸がキューっと締め付けられ苦しくなった。
「そしたらね…。入っていったって。」
「どこに?」
「ホテル」
「……そっか。」
最近の咲也の様子を見ていて、また…かなと思ってはいたけど、それが現実になってしまうとさすがに堪える。
「えへ。それはさすがにキツいね。」
どんな表情をしたらいいのか分からず、無理に笑ってみたけどうまくいかなかった。
「もうさ、潮時じゃない?いい加減別れなよ。あの人の浮気癖、一生治らないよ?」
「うん…。そうだね…。」
「美桜…。別れる気ないでしょ。」
香織は大きく溜め息をついて、少し呆れたように言った。
「そんなこと…。」
そんなことないよと言おうとして、それを最後まで声に出して言うことができなかった。
別れなきゃ。
別れたい。
本当に?
私は本当に別れたいの?
イヤな勘が当たっていたのに、まだ迷うの?
なんで?
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