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「美桜はもっと自分を大事にしなきゃダメ。私はいつでも美桜の味方だからね?なんかあったらちゃんと相談してよね?」
そう釘を刺す香織と駅で別れたのは、22時を少し回った頃だった。
家路へと向かう電車に乗り込む。
電車は割りと混んでいた。
酔っぱらっているのか、顔を赤くしながら大きな声で会話するサラリーマンたちや、数人で楽しそうに話す大学生くらいの若者。
一人でスマホに目を落とす人もたくさんいた。
ここにいる人たちは、皆が皆それぞれの物語を持っていて、誰かを愛したり愛されたり、裏切られたり裏切ったりしながら、それぞれの人生を生きているのだろう。
皆辛いの?
皆幸せなの?
楽しそうに笑ってるけど、本当は切ない思いを抱えていたりするのだろうか。
誰かを恨んだりしているのだろうか。
私は?
私は今、一体どこにいるの?
どこに向かうの?
込み合う車内で、急に一人だけ取り残された気がして泣きそうになった。
私は一人だ。
どうしようもなく一人だ。
寂しくなるのは、誰かに愛された記憶が体に染み付いているからだ。
咲也を愛してる。
でも咲也は私をきっともう愛してない。
それがどうしようもなく寂しいのだ。
それを認めたくなくて、私は咲也の浮気を見ない振りをしてきた。
浮気を何度繰り返しても、最後は私のところへ戻ってきてくれる。
だから私は愛されている。
そう、思い込もうとしていた。
このままでいいと、思っていた。
でも、もう限界だった。
電車は、私の住む駅の3つ手前の駅に到着した。
そこは咲也の住むマンションがある駅だった。
私の足は自然と動いていた。
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