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しばらく咲也の顔を見つめたまま、数分が過ぎた。 すると、ふいに咲也が目を開けた。 「えっ?」 一瞬ビクッとして、驚きの表情を浮かべた。 寝ぼけているのか、今のこの状況を働かない頭で必死に飲み込もうとしていた。 「…美桜?あービックリした。来てたんだ。」 「ごめん、驚かせて。」 「俺、寝ちゃってたのか。美桜いつ来たの?起こしてくれればよかったのに。」 「ついさっきだよ。気持ち良さそうに寝てたから起こすの可哀想だと思って。」 「ふーん、そっか。どうした?こんな時間に。なんかあった?」 「…ううん、別に。さっきまで香織と飲んでたの。そしたら、なんか急に咲也の顔見たくなって。」 「顔見たくなった?ホントかよ(笑)」 「変…かな。」 「変って言うか…最近はそんな感じじゃないじゃん、俺たち。」 「じゃあどんな感じ?」 「んー、そういう甘い感じはとっくに過ぎちゃっててさ。何て言うか…長年連れ添った老夫婦みたいな?」 老夫婦…か。 咲也は自分の言った例えがやけにしっくり来たのか、満足そうににやけながら頷いていた。 私は、黙ってテーブルの上の空き缶を片付けにキッチンへ向かった。 すると、ソファーで眠たそうにあくびをする咲也が頭を掻きながら言った。 「せっかく来てくれたけど、俺もうベットで寝るわ。美桜、泊まってく?」 「あ…うん…うーん、いや、やっぱり帰ろう…かな。」 咲也の「泊まってく?」の言葉に一瞬惑わされつつ、これは別に誘ってるわけではなく単なる社交辞令だってことにすぐ気付いて曖昧な返事をしてしまった。 私のたどたどしい物言いにもあまり気にしない様子で、 「ふーん、じゃあ気をつけて帰れよ。おやすみ。」 と言って立ち上がり寝室へ向かおうとした咲也の背中を見つめて、私は思わず口にしてしまった。 ずっと、胸の奥につかえていた言葉。 何度も胸をポンポン叩いても落ちていかなかった言葉。 何度飲み込もうとしても、どうしても流れていかなかった言葉。 それを言ってしまったら、私と咲也は一体どうなるのだろう。 そう思うと、どうしても口にできなかった。 なのにこの時、寝室へ向かう咲也の背中を見ていたら、あまりに自然に出てきてしまった。 「咲也…。私たち、別れよう。」
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