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咲也は立ち止まり、振り返った。 さっきまで半分閉じていた目が、今は大きく見開いている。 「どうした?急に。」 「急に…じゃないよ。言い出したのは突然だったかもしれないけど、本当はずっと考えてた。」 「いつから。」 「いつからだろう?分からない…。」 「…理由は?」 理由は山ほどある。 でも今私が別れようと切り出したのには、どれが直接的な原因なのかは私にも分からなかった。 それほど、自然にこぼれ落ちてきた言葉だった。 私が何も言えず黙っていると、咲也は溜め息をついて言った。 「誰に何を聞いたの?またくだらない噂だろ?」 「くだらない噂?」 「俺が誰かと一緒にいるとこを見たとか、そんな話じゃないの?」 「そんな話を誰かにされる心当たりがあるの?」 「ないよ…あるわけないだろ。」 「…そう」 「だからさ、そんな噂真に受けるなよ。」 「…あのね。私は別に、そういう話聞いたから別れようって言ったんじゃないの。」 「はぁ。じゃあなんでだよ。」 咲也は面倒臭そうに溜め息をついて、もう一度ソファーに戻って座った。 「咲也が誰と一緒にどこに行って何をしたかなんて、もうどうでもいい。私は、私の存在が咲也の中で重要じゃなくなったことが辛い。一緒にいても、私はいつも孤独だった。寝顔を見たら愛しさが止まらなくなったり、肌と肌をくっつけたら胸がキューってしたり、あなたが隣にいることを心から幸せだと思いたいのに。今はそれができない。あなたの顔を見ても、切ないだけで幸せな気持ちになれないの。」 別れようと言う言葉は思いがけず出た言葉だったのに、一度話し出したら別れたい理由がスラスラと出てくる。 ずっと、心の中で燻っていたんだと、改めて実感した。
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