褪せることのない記憶

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 撮れた写真を見せてくれた。  彼は顔を真っ赤にしながら、恥ずかしいといいつつも、私の手を握ってくれる。 「あ、あの、もしご迷惑でなければその写真を私たちにも一枚くれませんか?」  隣に立つ彼がおじいさんに言葉を投げかけた。  意外なことだと思ったが、せっかくの記念だと言うならば、もらっておくに越したことはないだろう。 「えぇ、もちろん、お二人のお時間を邪魔した罪滅ぼしというには、些か釣り合いませんが、どうでしょう? 一緒にお茶でもいかが?」  写真を渡す日時を決め、後日おじいさんの行きつけのお店で会う約束をすると、その日は解散になった。  彼はこれから家に帰り、結末を告げると言っている。  とても緊張しているが、大丈夫だと私は感じていた。   それから、数日後に彼と会うと今までにないくらいスッキリとした表情になっている。 「大丈夫だった?」 「うん、大丈夫じゃないくらい何も無くなったから、スッキリしたよ!」  その返答に私は笑いをこらえることができなかった。  私のためにと思うと、感謝しかでてこない。  待ち合わせ場所は、写真を撮った場所からさほど離れておらず、木造の雰囲気のよい喫茶店だった。  ドアを開けて中に入ると、珈琲の良い香りが漂ってくる。  店員さんが挨拶をしてくると、その奥で手を振る人がいた。 「あ、あちらのお客様と待ち合わせですか?」  笑顔の店員さんは優しく私たちを待ち人の席へと案内してくれる。 「お待たせしました」 「なにも、全然待っておりませんよ。 さあ、お二人の珈琲も頼んでおきましたが、紅茶のほうがよかったですか?」  私はどちらでも構わないが、彼は珈琲が大好きで隙があれば飲んでいる。  それを伝えると、この間のような優しい笑顔になり「それはよかった」と言ってくれた。      
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