褪せることのない記憶

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 少し待つと珈琲が運ばれてくる。   酸味のきいた美味しい一杯だ。 最初は雑談をしていたが、飲み終えることろに、丁寧に包装された写真が上品な鞄から取り出せる。 「これが写真さ、印刷してみてわかったんだが、やはり凄く素敵だ」  受け取った私たちはさっそく袋から取り出してみると、そこにはドラマの世界のような二人が写されていた。  とても照れくさく、背中がむずがゆいが大切な宝物になりそうだ。 「撮る人の腕がよかったんです」  彼がおじいさんに向かって言うと、軽く顔の前で手を振りながら「そうじゃないよ」という。  もう一度同じように袋に戻し、丁寧に礼を述べるとまた会話を楽しむ。  私たちの近状や、おじいさんの周りの話などとても楽しく、ついつい深い部分まで話してしまった。  最後はお会計まで払っていただき、お店を出ると丁寧にお礼をした。 「本当にありがとうございます」 「いやいや、これは二人の時間を盗んでしまった私がやりたいから、きにしないでください」  軽く頭を下げて帰ろうとしたとき、おじいさんは振り返り彼の元へ近寄ってくると、一枚の名刺をさしだした。 「何か困ったことがあったら、ここに連絡しなさい。 私は人を見る目だけで生きて来たような人間だ」    そこまでしていただけるなんて、彼は大切に名刺をしまい私たちは別れる。  彼は帰る家がないと苦笑いしながら、コンビニに置かれている求人雑誌をもらい、私が借りてるアパートに身を置くことにした。
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