褪せることのない記憶

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「どう? いいのありそう?」  求人雑誌に穴があくほど見つめていた彼に声をかける。  小さく首を横に振ると大の字になって寝そべった。  ポケットから邪魔な財布を取り出して、中身が殆ど入っていないのを確認してため息を吐いている。  そのとき、先ほど頂戴した名刺が一枚彼の顔に財布から落ちていく。 「うお、なんだ…。 え? ちょっと、これって」  彼は急いで携帯電話で名刺の人へ電話をかける。 『もしもし、さきほどの名刺を拝見したしましてお電話いたしました…』 『おやおや、随分と早いご決断で、やはり私は人を見る目があるようだ』  何度も電話の向こう側の人に向かって、頭を一生懸命に下げ始めた彼は、とても嬉しそうにしていた。  それからは時間の流れるスピードが速く感じられた。  おじいさんが経営する会社へ新人として勤務しだしたを見送りながら、洗濯を干し自分の会社へ向かっていく。  一年後には手狭になったアパートを引っ越し、広い場所へ移る。  二年後には、夫は重要なポジションに抜擢され、家にいる時間は減ったがとても楽しそうにしていた。  就職が決まったときに、車も無理をして購入しローンの返済をどうしようかと悩みながらも、楽しく笑える日々が続いた。  
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