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肝試し
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肝試しの当日は快晴だった。島の散策も兼ねていたので、朝一番に出る船に乗って泉たちは島へと向かっていた。
「それにしても、雷太が原西や笹塚と親しかったなんて初耳だわ~」
「まあな、たまたま中学の頃からオンラインゲームでパーティーを組んでいたのが原西と笹塚だったんだけど、リアルでも話すようになって今ではマジで親友って感じだ」
「親友ってよりも、戦友って感じだろ?」
久美が雷太をからかいながら、キャッキャとはしゃいでいると原西も雷太の肩に腕を回してじゃれついていた。
「オレたちが一番驚いたのは、何と言っても佐野さんが居たってことだわ〜! 真面目な佐野さんが一緒に来るなんて意外だったからさ~!(笑)」
「そうでしょ? 泉は、普段は真面目だけど。意外とこういうのが好きなんだよね~♪」
「ま、まあね。嫌いじゃないわ!」
笹塚に学校では、優等生で通っている泉が同行していることに突っ込みを入れられて、男慣れしていない泉は顔を真っ赤にして紗由理の問いかけに答えていた。
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島に着いた泉たちは、まず浜辺で泉が祖母に用意してもらって持参していたおにぎりと玉子焼きを朝ご飯にして、皆で平らげてから島の散策に向かった。
「やっぱ、泉のばあちゃんのおにぎり美味しいわ!」
「ありがとう~♪ ばあちゃんに言ったらすごく喜ぶよ!(笑)」
「あっ! 廃屋で肝試ししたことは、絶対に内緒だからね!」
「うんうん、わかってるよ!」
明るいうちは、島にある神社や山の中をぐるりと散策して自然に触れて泉たちは過ごしていたので、誰が見ても健全な高校生が島でアウトドアライフを楽しんでいるようにしか見えなかっただろう。
ようやく、辺りが薄暗くなりかけた頃になって泉たちは、人目を気にしながら村の外れにある廃屋に訪れて肝試しを始めようとしていた。
廃屋に入る前にあらかじめ紗由理が用意していたくじを引いて、一緒に中へ入るパートナーを決めることにした。
1番最初に中へ入るカップルは、紗由理と原西。2番目のカップルは泉と笹塚。3番目が久美と雷太に決まった。
原西に恋心を抱いている紗由理は、わざとらしく怖がるふりをして原西の腕に自分の腕をしっかりと絡ませて歩き出した。
廃屋の入り口は2枚戸の引き戸だったが、古びた引き戸のガラスが粉々に割れて足下に散らばっていて、その引き戸の枠組みもほとんどが朽ちて外れそうになっていたので、廃屋の不気味さを更に増していた。
陽が沈んで辺りがかなり暗くなってしまったので、久美や雷太に急かされた紗由理と原西は躊躇する暇もなく廃屋の中へと入って行った。
玄関を入ってすぐ右側に広い土間があり、そこが炊事場だったようで鍋や茶碗が無造作に転がっていて、調理台らしき場所には錆び付いた包丁が放置されたままだった。
「やっぱ、気持ち悪いね。なんかカビ臭いし、蜘蛛の巣があちこちにある~!」
「そりゃ、廃屋なんだから仕方がないだろ! 確かにすげぇ不気味だけどな……」
紗由理たちは、身を屈めながら身体をぴったりと寄り添った状態で家の中へと足を進めていた。
土間を上がってすぐある広い畳の部屋は食卓だったのだろう、大きな天然木で出来た楕円形の座卓が腐った畳の上にそのまま置かれていた。
「湯呑み茶碗? なんか、さっきまで人がいたみたい……気持ち悪いね」
「お、おいっ!? これ、マジでまだ温かいんだけど……ヤバくね?」
「嘘っ!?」
座卓に置かれていた湯呑み茶碗を原西が手に取ってみると、ほんのりとまだその湯呑み茶碗が温かかったので、驚いた原西が声をあげて叫んでいた。
原西の言葉を聞いた紗由理は、すぐにこの廃屋に誰か寝泊まりしているものがいるのかもしれないと、原西の腕をつかんで慌てて外へ転がるように飛び出していた。
廃屋に入ってから、ものの5分もたたないうちに飛び出してきた紗由理と原西に泉たちは凄く驚いて、2人を慌てて取り囲んで中で何があったのかを久美が問い詰めていた。
「ちょっと、紗由理!? どうしたの? 中で何かあったの?」
「だ、誰かこの廃屋にいるわ! 飲みかけのお茶の入った湯呑み茶碗があった……」
「こんなボロボロの廃屋に? 気のせいじゃないの?」
「気のせいなんかじゃねえよ! 触ってみたら、本当にまだ温かかったんだ!」
座卓に置かれていた湯呑み茶碗のことを聞いた久美が、気のせいじゃないかと笑うと原西が強い口調でその言葉を否定していた。
紗由理と原西の話を聞いて、廃屋の中に誰かが潜んでいるかもしれないことに不安を感じた泉は、紗由理たちに「今日はこれでおしまいにしようよ」と提案したが、紗由理と久美がもう一度中を全員で確かめようと言って譲らなかった。
「じゃあ、少し調べてみるだけだよ!」
「うんうん、ヤバそうだったらやめる。湯呑み茶碗が本当に温かいかを確かめたいのよ!」
泉は紗由理たちに言いくるめられてしまって、渋々廃屋の中へ入ることになってしまった。
【ギシギシ……ギシッ!】
「やだっ!? あちこち腐って畳ごと床が抜けそうな音がしてるじゃない!」
「仕方ないだろ! この家は何十年も放置されたままだった廃屋なんだからさ!」
「あっ! それ! その座卓にある湯呑み茶碗だよ!」
土間から畳の部屋へ上がると、畳と床が悲鳴をあげているかのようにギシギシと音が鳴るので、久美が気味悪がって声をあげていた。
そして、久美のすぐ後ろにいた紗由理が座卓に置かれた湯呑み茶碗を指差して叫ぶと同時に雷太が前に出て、湯呑み茶碗を手に取っていた。
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誰よりも早く湯呑み茶碗を手に取った雷太は、すぐに眉間にシワを寄せて原西に向かって叫んでいた。
「全然温かくなんかないぞ! すっげー冷たいんだけど……本当にこの湯呑み茶碗なのか?」
「確かにそれだ! 冷たいだと!? そんなはず……う、嘘だろ?」
雷太が湯呑み茶碗が冷たいと叫ぶと、すぐ後ろにいた原西が雷太から湯呑み茶碗を奪い取ってその顔を青くしていた。
「そんなはずねえ。さっきまで温かかったんだ! こんなに冷たくなってるはずない……」
「おいおい、もしかしてお前……オレたちをびびらせようとしてるんじゃねえだろうな!」
「なんで、オレがそんなことしなきゃいけねえんだよ! するわけねえだろ!」
原西が湯呑み茶碗を持ったまま固まっていると、笹塚がたまりかねたという表情で原西に自分たちを脅かすための自作自演じゃないのかと失笑していた。
そのやり取りを聞いて、久美が馬鹿馬鹿しくなったのか? 1人で家の奥へと入って行ってしまったので、泉も蜘蛛の巣を避けて身を屈めながら久美を追って行くと、そこには大きな仏壇のある部屋があった。その仏壇の前には布団が一式敷かれたままになっていて、何だか掛け布団が少し盛り上がっているように見えた。泉と久美はお互いの手を取りギュッと握り締めた。そして凍り付いたように布団を見つめたまま、その場から動けなくなってしまっていた。
久美と泉を追って来た紗由理も2人の様子がおかしなことに気付いて、その視線の先にあるものを見つけて同じように動けなくなってしまった。
「おいっ! 女子だけで先に行くなよ! って……どうした?」
「あ、あ……あれ……ひ、人が……」
先に進んで行ってしまった女子たちを、心配して慌てて追って来た雷太が、その場で立ち止まっていた泉たちに声をかけると泉が布団を指差して怯えていたので、軽い気持ちで雷太はその掛け布団をめくり上げてしまった。そして、目に映ったものが何かを認識したと同時に泉たちと一緒に雷太も絶叫していた。
「ウギャァァァ~!!」
「「キャァァァ~!!」」
「イヤァァァ~!!」
4人の叫び声を聞いて、慌てて駆け付けた原西と笹塚も目の前に横たわっているものを見つめて驚愕していた。
それもそのはずだった……仏壇の前の布団の中には、干からびたミイラ化した人の遺体が横たわっていたのだ。
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さすがに本物の遺体を見つけて放置するわけにもいかなくなってしまった6人は、島にある駐在所へ駆け込んで廃屋にミイラ化した遺体を見つけたことを正直に話して助けを求めた。
廃屋にあったミイラ化した遺体は、本土から来た警察に回収されて、泉たちは警察から連絡を受けて迎えに来た保護者たちにその場でこってり絞られて、この肝試しは幕を閉じたのだと誰もがそう思っていた。
…しかし、6人にとっての本当の恐怖はこれから始まることになるのだった。
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