老婆の呪い

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老婆の呪い

********  その夜、泉は夢の中で黒髪のとても綺麗な顔立ちをした青年と港でいつものように海を眺めながら、あの老婆のことを話していた。 「泉たちは、大変なものに呪われてしまったようだね。早いとこ何とか手を打たないと、取り返しのつかないことになるよ」 「大変なもの?……あの、老婆のこと? それより……あなたは誰? どうしてあの老婆のことをしってるの?」 「僕は夜刀……神社で泉に出会った黒猫の夜刀の本体とでも……言っておこうかな? フフフ」  青年の名前を聞いて、泉はとても驚いていたが夢の中ということもあって、すぐに落ち着いて夜刀の話に耳を傾けていた。 「いつものように、見て見ぬふりを決め込んでこの街を通り過ぎるつもりだったんだけどね……泉があまりにも僕の知っている人に似ていたから、放っておけなくなったわけさ!」 「私たちを助けてくれるの?」 「まあね。出来ることはやるつもりだ」 「ありがとう。私も出来ることは何でもするわ!」  泉が頭を深く下げて礼を言うと、夜刀は照れくさそうに少しはにかんで笑うと、泉の頭を優しく撫でて軽くハグをしてから消えてしまった。 ********  目を覚ました泉は、起き上がるとすぐにベッドの横に用意していた夜刀の寝床をそっと覗き込んでいた。 「やっぱり普通のただの黒猫さんだよね……あんな夢を見るなんて……無い物ねだりしてるみたいで私ったら、何かバカみたい……」  寝床で寝息をたてて、気持ち良さそうに眠っている黒猫を優しく撫でて先程見た自分の夢を思い返して、泉はいるはずの無いものにすがる自分を情けなく感じていた。  眠れなくなってしまった泉が、ふと枕元にある時計を確認すると……時計の針は夜中の2時を指していた。 (やだな……眠れなくなっちゃった) 喉が渇いた泉は台所まで行くと冷蔵庫を開けて、ペットボトルに入った天然水を取り出して喉の渇きを潤していた。 【カタカタカタカタ!】 「えっ!? 何の音?」  泉の背後で微かに物音がして、驚いた泉が振り返ると……そこには、あの雷太の背後にいた老婆が不気味な笑いを浮かべて佇んでいた。 ********  泉の背後で不気味な笑いを浮かべていた老婆は、一瞬で泉の目の前に移動して骨と皮だけになった細い枯れ木のような手を泉の両肩に食い込ませるようにして、しっかりと掴むと泉の顔を覗き込んで声を出して笑っていた。 「ひっ!? 痛い!!」 【ヒヒヒヒヒ……ツカマエタ】  老婆に物凄い力で両肩をしっかりと掴まれてしまった泉は、必死になってその手から逃れようとしたが泉の力では老婆の手から逃れることが出来なかった。 「ニャー!!」  自分も雷太のようになってしまうのかと、泉が半ば諦めかけていると……黒猫の夜刀が老婆に飛び掛かっていた。 「夜刀!? 助けに来てくれたのね!」  不思議なことに、夜刀が老婆に飛び掛かるたびに何故かとても老婆が苦しんでいるように泉の瞳には映っていた。 【ギャァァァ―――!!】  夜刀に一方的に激しい攻撃を受けた老婆は、苦しそうな叫び声をあげて姿を消してしまった。 ********  さっきまでの出来事が、夢か現実かもよく理解できずに放心状態のまま、動けなくなっている泉を宥めるように黒猫の夜刀が泉の手の甲をペロペロと舐めていた。 「ありがとう……夜刀。助けてくれたんだよね。……あれは、夢なんかじゃない。呪いは本当なんだ!」 「にゃ~!」  しっかりしろとでも言っているかのように泉の足元で夜刀は、語尾を強くして鳴き声をあげていた。  泉が部屋に戻ると、こんな真夜中に紗由理からのメールがスマホに届いていた。 [原西もやられちゃった! 雷太と同じ病院へ事故って運ばれたって笹塚から連絡あったよ! 泉は大丈夫?] (紗由理ったら……他人の心配してる場合じゃないのに……) 「大丈夫かい?」  泉が紗由理にメールを返信していると、物音に気付いて起きた八重が部屋のドアを開けて入って来て心配そうに泉を見つめていた。 「お前もまた、えらく妙なものに関わってしまったようだね。ほんと……血は争えないね~」 「ちょっと、お祖母ちゃん? 今のどういう意味!?」 「泉には、まだ話していなかったけどね。我が家は代々祓い屋を生業にして来た家系なんだよ……」  突然の八重の告白に泉は、しばらく何のことかを理解出来ずに何も言葉が出て来なかった。
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