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払い屋
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窓の外がうっすらと明るくなり始めた頃、泉は祖母の八重とテーブルを挟んで向かい合って椅子に座って、詳しく八重から祓い屋について聞かされていた。
「祓うと言ってもね。色々やり方があるし、それぞれもたらされる能力も全く異なるものなんだよ。私の場合は、相手の心が読める能力とこの手で怨霊を浄化する能力をもたらされた……それも歳をとることで、弱まってしまったがね(笑)」
「お祖母ちゃんも祓い屋さんだったの?」
「ああ、そうだよ。……お前の母さんと父さんもね……。お前の母さんは、自分の娘には普通に暮らして欲しいと言って譲らなくてね。だから、離れて暮らすことになったんだよ」
「そうだったんだ……」
真実を聞かされた泉はとても驚いてはいたが、両親が泉に普通に暮らしてもらいたいがためにあえて離れて暮らすことを選んだのだと知って、胸に熱い何かを感じていた。
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瞳にうっすらと涙を浮かべている孫娘の頭を優しく撫でてから、八重はニッコリ微笑んで付け加えるようにこう告げた。
「そうそう! お前が連れて帰ってきたあの黒猫……あれは、誰かの使い魔のようだねぇ~(笑)」
「嘘~! やっぱりそうなの? じゃあ、あれは夢なんかじゃなかったんだ!」
「どうやら、お前を守ってくれているようだね。フフフ」
「うん。さっきも助けてもらった……」
八重に黒猫の夜刀のことを言われて、泉も夜刀を探しながらあの夢の中の夜刀のことを思い出していた。
「お祖母ちゃん、夜刀って聞いたことないかな? あの黒猫の名前なんだけど……」
「そうかい。あれは、夜刀の使い魔なんだね。フフフ。だったら、私の出番は無さそうだね」
「やっぱり、夜刀を知ってるのね! お祖母ちゃん! 知ってることがあるなら教えて!!」
意味深なことを言いながら、ニヤニヤ嬉しそうに目を細めて笑っている八重に向かって、泉は身体を乗り出して夜刀のことを問い詰めていた。
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泉に夜刀のことを問われて、八重はどこか寂しげな目をしてポツポツとまた語り出した。
「夜刀は私の一番目の姉さんの孫でね。影の力を受け継ぐ家系に生まれた子なんだ」
「そうだったの!? 夜刀が影の力……?」
「私たちは、光の力の家系でね。怨霊を浄化して光の向こうへ浄化した魂を導くのが主な祓い方なんだけどね。影の力は、浄化することも出来ない悪霊化した魂を影の力で闇に葬るんだよ」
「なんだか頭がおかしくなりそう……」
今まで何も知らされることも無く過ごして来た泉にとって、八重の話はあまりにも現実からかけ離れていたのですぐに全てを理解するのは無理な話だった。
泉が少し外の空気を吸おうとベランダの戸を開けると、そこには夢の中で話した黒髪の青年が涼しげな顔をして笑っていた。
「クククク。ばあさんも容赦ねえなぁ~! いっぺんに何もかも話してしまうから、泉が混乱しちまってるじゃねえか!」
「あっ!? 夜刀……!?」
「お前が心配するほど、泉は弱い子じゃないよ!」
夜刀が八重に笑いながら憎まれ口を叩いても、ちっとも気にする様子も見せずに八重は立ち上がって朝食の用意を始めていた。
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