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彼女の歌声は本当に、まっすぐで揺らぎのない、それでいてその信念を裏切らない努力をしてきたのもよくわかる音色をしていた。
音源では好きな声をよく聞いていたが、現実でしかも同じ学校でここまで美しい声を聞いたのは初めてだったので驚きのあまりその時は音楽室の中を確認することもなく急ぎ足でその場を離れてしまった。
その時の後悔は今でも忘れられない。
どんな子がどんな風に歌っていたのだろうか。
後になればなるほど気になり私は妄想ばかりが膨らんでいった。
芯の強そうでありながらも、繊細な声。
きっと黒髪ロングのお姫様のような美人に違いない。
それでいて、色白で線が細い華奢な大人しそうな女の子のような気がした。
私もそこまで身長が高いわけでないが、きっとわたしより小さい。
きっと守ってあげたくなるような子なんだろう。
私は声のイメージだけでどんどん妄想が膨らみ
そんな彼女とどうしたら仲良くなれるだろうかと必死に考えた。
そもそも同じ学校とはいえ、クラスどころか同じ学年かも分からないのにである。
でも、あの歌声とイメージがあればきっと探すことができるだろう。
なぜか絶対的な確信をもって私は探すことを決意したのだった。
翌日からはクラスメイトはもちろん、先生や先輩たちまでも捕まえては不確定な情報をもとに質問攻めをするという謎の行動をし始めた。
いつもは教室の隅で大人しく音楽を聴いているか、本を読んでいるだけの私だったがその運命の歌声の人物を探すことに関しては必死だったのだ。
その様子に先生方やクラスメイトは面白がって、間違ったものや嘘もたくさんあったがいろいろと情報を提供してくれた。
そして、辿っていくとその人物がアイドルを目指し努力をしている同学年の子であることが分かった。
さらに言うと手造りプリンで経営がうまくいき、いきなりお金持ちになったことで地元では少し有名な姫凛一家のお嬢様であること。
家族も少し変わってはいるが悪い人たちではないのに、一部では「成金のプリン財閥」などと陰口をたたく人も何人かいたことなど、彼女に関するいい噂以外の妬みが含まれたものもあることまで知った。
そんなお金持ちの親の援助があって歌やダンスのレッスンなどに行っていたそうで、それが気に食わない子はたくさんいたのだ。
「お金があるから」
「私だってレッスンに行ければ」
「あんな子より〇〇ちゃんのほうが可愛いしアイドル向けだよね」
そんな汚い声を学校のあちこちで聞いた。
その程度の声で何を言っているのだろう。
みんなが遊んでいる時間も努力をしてきている。それが分かるくらい彼女の声には魅力があった。
私はますます、その姫凛のお嬢様に興味が沸いてきた。
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