第3話「遺跡の街」

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第3話「遺跡の街」

   「第二階層で、ランヴァーの奴に会ったわよ」 「本当か、ルーシー?」 「相も変わらず、目ぼしいものを探していたみたい」  街の中心近くに構えている宝石鑑定所で、この前手に入れたサファイアの鑑定を頼んでいたら、悪友のルーシーが声をかけてきた。 「第二階層ってのは、アンデッドが多いんじゃないのか?」 「だからこそ、よ」 「何が……」  どうやら彼女ルーシーも幾ばくかの宝石を持ってきたようだ、ややに薄暗い店内でその宝石群がランタンの光を反射し、淡く輝く。 「そのアンデッドに対抗出来なくて、自身もアンデッドになった連中が沢山いるってこと、よ」 「しかしなあ……」  アンデッド、いわゆる不死生物には通常の戦法が有効ではない。僧侶でもいれば話は別だが。 「ランヴァーの奴、アンデッドと渡り合えるのか?」 「何か、どこかの生臭坊主達とつるんでいるみたい」 「信仰心が無くても、僧侶は僧侶か」 「そういうこと」    この街の僧侶、司祭は皆信仰よりも金銭に祈りを捧げているらしいが、それでも長年つちかってきた対アンデッド用の「祈祷」は有効だということだろう。 「じゃあ、あたしは帰るわね」 「結構、お前も宝石を見つけて来たな?」 「場所を聞きたい?」 「教えてくれるもんかよ、お前が……」 「フフ……」  妙な含み笑いを浮かべる彼女に対して肩を竦めるアシュ。その彼を無視し。 「良い男娼、買えるかしら……」  夜の楽しみを模索している彼女ルーシー。 「全く……」  彼女が立ち去った後、アシュも宝石の鑑定を終えて。 「さ、行くか」  例の場所へとその脚を向ける。 ―――――― 「さ、これが今月分の儲けだ」 「いいのかい、旦那?」  その例の場所、故郷の村への宅配サービスを行っている定期馬車乗り場で、彼アシュは金貨に両替した「儲け」を運び人にと渡している。 「別に旦那には、村に良い想い出なんぞはないだろう?」 「まあ、そうだがね」  宅配人に言われるまでもなく、彼自身がなぜ「故郷の村」にと仕送りをするのか、よく解らない。 「ああ、そうそう……」  少しの間、故郷への思いを巡らせていた彼アシュに。 「お前の幼馴染みの女、結婚したんだっけな?」 「へえ、ヘレンが……」 「ええ、おい」  どこか嫌みな笑いを顔に浮かべながら、アシュの事を軽く小突く配達人。 「好きだったんだろ、あの女?」 「別に」 「つれないねぇ……」 「それに、お前には関係ないだろう?」 「まぁな……」  カラァン……  定期馬車隊の出立の合図が鳴り響く中、配達人は馬車にと飛び乗りつつに。 「でも、お前の村」 「なんだ?」 「今年は、凶作らしい」 「ああ……」  その噂は街でも聴いた。故郷の村だけではなく、その周辺の村すべての作柄が悪いらしい。 「例の魔女の仕業じゃねえか?」 「そう思うなら、お前さんが」 「嫌だね」 「まだ、オラは何も言ってねえ」 「俺だって、命は惜しい」  ニカと配達人に笑いかけながら、アシュは次々に出立していく馬車隊を見送り。 「ちゃんと、届けろよ!!」  先の配達人にそう、念を押した。 ―――――― 「新人が沢山この街に入ったんだって?」 「ああ、アシュ」  酒場で安物の酒を飲んでいたときにランヴァーが入ってきて、そうアシュにと単刀直入に言葉を告げた。 「久々に第一階層が、賑わっているよ」 「あの階層、すでにあらかた漁り尽くされたはずでは?」 「なんでも、新たな場所が発見されたらしい」 「へえ……」  そんな風にランヴァーに言われても特には驚かない。もともと広大な遺跡であり、あちらこちらに通行が出来なくなっている箇所を彼アシュはその目で確認しているからだ。 「そこでの宝物が、第三階層に匹敵する程の物らしいぜ、アシュ」  第三階層、一般的に墳墓と呼ばれている第二階層とは違い、溶岩のような物が流れている階層だ。 「しかし、第三階層か……」  二、三年前の記憶を呼び起こすその階層の名。アシュが「勇気」を振り絞りその浅いところまでやってきた階層である。 「そこが、俺の限界なんだよな……」 「アシュ、俺だって第三階層が限界だぜ」 「お前の腕でもか、ランヴァー?」  このランヴァーの大剣の腕前は大した物である。以前にゴブリンの巣穴に迷いこんだ時に、命からがらその剣一本で生還した実績があるのだ。 「どうするかな、ランヴァー?」 「最初は様子見で良いんじゃねえかね?」 「まだ、何も言ってない」 「言ってなくても、漁りのことだろ?」 「フン……」 「お前と同じことを考えている連中が沢山いる」  スゥ……  何か、妙に苦いシチューを啜りながら、アシュはそのランヴァーの言っている意味を心の中で反芻している。 「同業者と、トラブルになるか……」 「お前みたいに、遺跡に立ち向かう自信がなくなった連中が最近増えた」 「言ってくれるじゃねえか、ランヴァーさんよ?」 「第二階層も第三階層も、めぼしい物が無くなってきているんだ」 「フム……」  だとすれば単に楽だからという理由ではなく、この遺跡全体があらゆる意味で「枯渇」しているという事だ。 「ひとまず、行ってみるか?」 「俺も付いていくのか、アシュ?」 「用心棒代は渡すぞ、ちゃんと」 「フン……」
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