もし願いが叶うならば

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 きっと綾も、俺の様子がおかしいことには気づいていたのだろう。煩わしくは思われない頻度で、よくスマホにメッセージを送ってくれた。  なんでもない日記のような文章だったり、母親のように俺の生活を心配してくれたり、内容は様々だった。直接突っ込んだことを聞いてこないところが、綾の優しさだと思う。それを感じるたびに、罪悪感と無力感が俺の胸を締め付けた。  俺も綾の彼氏として相応しい男になろうと、鏡の前に立ったこともあるが、馬鹿らしさに力が抜けただけだった。髪型や服装以前に、心のどこかが彼らよりも劣っていて、それはきっと、どうしようもないものなのだと悟ってしまったのだ。  きっと俺は、輝きを増していく彼女の足枷にしかならない。  かといって、別れを告げるような勇気はなく、歯の欠けた歯車同士のような関係をしばらく続けてしまった。  決定的だったのは、二週間前のことだ。  俺はレポートを書くための資料を探しに、大学の図書館に行った。そこで同じ講義を受けている女子と会い、彼女からレポートの内容について相談を受けた。その場を、綾に目撃された。俺と目が合うと、気まずそうに背を向けて去ってしまった。  大学図書館ではよく見かける場面ではあり、普通なら妙な勘ぐりをすることもない。  しかし、俺の気持ちに懐疑的になっていたであろう綾の心には、かねてから不安の種のようなものが転がっており、それを発芽させるきっかけになってしまったということは、想像に難くない。  そして、今日だ。冬休みで帰省していた俺は、綾から公園に呼び出された。彼女が帰省してきていたことも知らなかった。クリスマスも会わず、彼女の顔を見たのも二週間ぶりだった。  公園に行くと、綾は俺を(なじ)ることもせず、必死に言葉を選びながら別れを告げてきた。そんな姿にも温かな優しさを感じ、だからこそ俺なんかにはもったいない人だと思った。  関係の修復を望む資格など、俺にあるはずはない。
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