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大学二年の冬休み。俺は実家の家業である酒屋を手伝っていた。
実家といっても、以前の実家ではない。
俺が神に願ったのは、綾と出会うはずのない、どこか遠くの家に生まれた人生に変えてもらうことだった。これまでの俺の人生はなかったことになり、新たに与えられた人生、約十九年分の記憶が一気に頭の中に流れ込んできた。
東北の地方都市で酒屋を営む家。そこが、俺の第二の実家である。通っている大学も、家から通える場所にある大学で、以前とは違う。
以前の記憶も残っているので、俺の頭の中には二人分の人生が詰め込まれていた。
おそらく、パラレルワールドというやつなのだろう。
生年月日は、前の人生と同じだ。
群馬に住んでいた頃の友人や家族とは無縁の世界。これはかなり寂しいことでもあったが、こちらの世界線に来て一ヶ月も経つと、こちらの記憶が馴染み、普通に生活できるようになった。
綾は俺とは出会わない。だから、こんな男と好き合って、傷つくこともない。それが、俺の望んだことだった。出会ってしまえば、俺はきっと彼女を好きになる。あの優しさを、きっと俺はまた求めてしまう。きっと、同じ事を繰り返してしまう。
出会うはずもない、遠く離れた場所での人生。そう、神に願った。
俺の容姿は、以前とは違う。受け継いだDNAが違うのだから当然だ。だが、やはりというべきか、心は変わっていない。それでもいい。俺が苦しいだけなら、構わない。
時折、綾の顔を思い浮かべる。傷つくことなく、幸せそうにしている笑顔を空に描く。それだけで満足だった。
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