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No.2『調味料』
佐原「てーっててーてててててー」
根岸「キテレツだ」
佐原「そう、キテレツ大百科の発明のときの音じゃよ、よくわかったね根岸くん」
根岸「いえ、佐原博士の普段の言動に対しての発言です」
佐原「辛辣! だ、だがこの新発明をみてもそんなことが言えるかな!」
根岸「で、今回はどんな珍発明をしでかしたんですか、佐原博士」
佐原「助手ぅ! ちょっとねぇ、キミ助手でしょ!? なんなのその博士に対する態度は! しっかり! もっとしっかりこう、助手して助手! たのむよ!」
根岸「敬語使ってるじゃないですか」
佐原「最低限じゃん!」
根岸「博士が学会で認められてくれば、それに伴って扱いもよくなりますよ。たぶん」
佐原「そ、そうか、それは頑張らないとな。私の地位向上のためにも」
根岸「で、今回はどんなゴミクズを?」
佐原「はやい、はやいぞ根岸くん、今回のこれはゴミクズと呼ぶにはまだはやい」
根岸「近いうちにゴミクズってことですか」
佐原「辛辣! まあいい、みるがいい、空前絶後、今世紀最終最後の新兵器じゃ!」
根岸「兵器なんですか」
佐原「これを見るがいい!」
根岸「……小瓶? 中身は、塩ですか?」
佐原「現代においてただの塩がなんの発明になるものか、21世紀じゃよ21世紀。まだまだ思考回路が昭和じゃのう根岸くんは」
根岸「博士自身がゴミクズになりますか?」
佐原「ちょ、待ってゴメン、ゴメンって、目が怖いよ根岸くん」
根岸「すみません」
佐原「いいんじゃよ、私の心は瀬戸内海より広い。タコとかおんねん」
根岸「もうゴミクズでしたね。すみません」
佐原「助手ぅ!」
根岸「で、今回の発明は? 一向に進まないじゃないですか」
佐原「ぐぬぬ。ま、まあいい。 根岸くん、人間の三大欲求をしっているかね」
根岸「睡眠欲、性欲、食欲ですか」
佐原「そう、その今回はそのそれ、その二つ目のそれ!」
根岸「指示語が多い。二つ目って、性欲ですが。なんですか、惚れ薬かなんかですかその小瓶」
佐原「あ、ちがうちがう、三つ目のそれ」
根岸「食欲」
佐原「そうそれ! それ! それそれ! つまり人間の大事なコトのひとつなわけじゃよ食欲! そこでそのそれ、今回のこれ!」
根岸「さっき兵器って言ってませんでした?」
佐原「えーと、言ったっけ?」
根岸「言いました」
佐原「食は兵器!」
根岸「なんか言い切った」
佐原「偉い人たちだって、胃袋を掴んじゃえば操り放題じゃよ! 今も昔も、いくつかの国は料理人が裏で実権を握っているのじゃ! たぶん!」
根岸「そうですか」
佐原「興味ゼロか! まあいい、いよいよこの発明品のすごさを説明するときがきたようじゃな。時は来た!」
根岸「はいはい」
佐原「根岸くん、最高の調味料というものを知っているかね」
根岸「愛」
佐原「言い切った! キャラじゃないでしょそういうのキミ!」
根岸「いいから本題を進めてください」
佐原「あ、はい。ほんとにキミ助手なの……? えと、えっとね、これはすごい、すごーい発明なんじゃよ。 その名も、空腹味の調味料じゃ!」
根岸「空腹味?」
佐原「そう、空腹に勝る調味料なし、と言うじゃろう。これをふりかければ、どんな料理でも美味しくなる。たとえママの料理でもね」
根岸「ネコ型ロボットが味のもとのもとの回で同じことを言ってましたね」
佐原「ふふ、22世紀はすぐそこまで来ているということじゃよ。そう、私の手によってね」
根岸「ラストはその粉を博士が被って、僕に食べられそうになるオチですか」
佐原「私を食べるなんて! いやん、根岸くんのエッチ!」
根岸「……ただの肉になりますか?」
佐原「あ、まってまって殺さないで。ストップ根岸くん。目が怖い」
根岸「別に何もしませんよ。で、それ、何にでも使えるんですか?」
佐原「さすがに人間にはどうかと思うけど、食べ物なら割となんでもいけるはずじゃよ」
根岸「このコーヒーでもいけます?」
佐原「飲み物はどうじゃろ」
根岸「というか、それは化学調味料の類ですか?」
佐原「うん、化学のちからでできた調味料じゃよ」
根岸「実際、どういうものなんですか、空腹味の調味料って」
佐原「お、興味出てきたね、いいよいいよー」
根岸「……」
佐原「これは、満腹中枢をピンポイントでトバすドラッグじゃよ」
根岸「未来っぽさゼロじゃないですか」
佐原「未来なんて来てみたらこんなもんじゃよ。昭和の時代に描いた銀色の未来はどこにもない。車も空を飛んでない。タイツみたいな服も着ていないのじゃよ。結局、未来というものは、現在からの地続きの世界でしかないのだから。一般人に与えられる未来は、せいぜいがスマホやオール電化ってところじゃな」
根岸「なんかマトモっぽいことを」
佐原「というわけで、これ、使ってみる?」
根岸「博士がどうぞ」
佐原「えー」
根岸「というわけで、炊きたてご飯を用意しました」
佐原「えぇ……。 手際いい……」
根岸「助手ですから」
佐原「こういうときだけ助手なんだよなぁ」
根岸「では拝借して、ふりかけて、どうぞ食べてください」
佐原「手際いいなあ」
根岸「どうぞ」
佐原「いただきます」
根岸「めしあがれ」
佐原「これは!」
根岸「どうですか」
佐原「うまい! うまいよ根岸くん! まるで塩味!」
根岸「塩とすりかえておきました」
佐原「わぁ……なんのために……」
根岸「おいしいでしょう?」
佐原「うむ、おいしい。塩はすごいなぁ」
根岸「塩は人類の発見した最強の調味料ですよ。日本では三千年ほど前には、塩が作られていたそうです。海外ではもう少し発見が早かったそうですが」
佐原「塩すげー、うめー」
根岸「塩ごはん、美味しいですよね」
佐原「うむ、炊きたてご飯とお塩でけっこういけるものだな。すごいぞ根岸くん」
根岸「いえ」
佐原「あれ、そういえば私の発明は?」
根岸「捨てました」
佐原「ゴミクズに!?」
根岸「なりました。塩と比べたら博士の調味料なんてゴミクズですよ」
佐原「辛辣! でも相手が塩なら仕方ない」
根岸「そもそも博士のは調味料じゃないでしょう」
佐原「だって、空腹は最高の調味料だって聞いたから」
根岸「アプローチ方法が間違ってましたね」
佐原「んー。あ、そういえば愛が最高の調味料ってのも聞いたことがある!」
根岸「それはさっき……」
佐原「料理に愛という調味料が入っていれば……、いや、食べる側が作る人に惚れていれば、どんな料理も最高の料理に……」
根岸「……」
佐原「つまり、惚れ薬を作ればいいんじゃな!」
根岸「調味料じゃないですね」
佐原「愛も空腹も調味料ではないぞ」
根岸「身も蓋もない」
閉幕
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