9人が本棚に入れています
本棚に追加
No.70『不自由えもん』
根岸「そーらをじゆうにー、とーびたーいなー」
佐原「はい、竹ぇ!」
根岸「……」
佐原「……」
根岸「……こ、コプターは?」
佐原「竹ぇ!」
根岸「いや」
佐原「どうしたよ根岸くん」
根岸「え、あのさ……」
佐原「うん」
根岸「未来から来たん……だよね?」
佐原「うむ、二十世紀の未来からやってきた、人型汎用決戦兵器だよ」
根岸「青いあの猫型ロボット的なさ? 期待をするわけだよ、こっちは」
佐原「ブカブカズボンの尻にポケットもついてるしな!」
根岸「……そうだね……」
佐原「どら焼きは別に好きでも嫌いでもないぞ」
根岸「あのさ」
佐原「うん?」
根岸「……あの歌みたいにさ」
佐原「歌……」
根岸「うん」
佐原「不思議なポッケで叶えてくーれーるー」
根岸「そうそれ」
佐原「んーふーふふふふふー、ふんふふんふふーん♪」
根岸「歌詞曖昧なのか」
佐原「うむ!」
根岸「そ」
佐原「そ……、そ?」
根岸「そ」
佐原「蕎ー麦ーを夢中でー! 食ーべたーいな!」
根岸「空だ、空」
佐原「空……、空を、ええと……、酢昆布と……」
根岸「……」
佐原「あ! そーらーをじゆうにー、とーびたーいなー」
根岸「うん、それ」
佐原「はい、竹ぇ!」
根岸「なんで竹が出てきちゃうんだ!」
佐原「しかも一本まるまる」
根岸「うん、そう、しかも一本まるまるな。これで二本目だし」
佐原「不思議なポッケだろう?」
根岸「そこはね、そこだけは間違いなく不思議だよね」
佐原「だろう?」
根岸「でさ、空を自由に、飛びたいんだって願いに対して」
佐原「竹ぇ!」
根岸「三本目! 素材じゃん!」
佐原「バンブー!」
根岸「竹じゃん?」
佐原「飛べばいいじゃん」
根岸「あ、何? 魔女のホウキみたいな、そういう空飛ぶ道具なの?」
佐原「ただの竹だけど。飛ぼうと思えば飛べなくもない」
根岸「ただの竹なんじゃないか……」
佐原「こっち側持って」
根岸「はい」
佐原「で、すっごいしならせて……」
根岸「待て」
佐原「何?」
根岸「自由に、飛びたいんだ」
佐原「はい、竹ぇ!」
根岸「だから竹でどうやって自由に飛ぶんだよ!」
佐原「だから、こっち側持って!」
根岸「はい」
佐原「で、すっごいしならせて……」
根岸「待て」
佐原「何?」
根岸「この飛び方は間違いなく不自由だ」
佐原「ふむ、ワガママだなぁ根岸くんは」
根岸「いやうん……、ちょっと空は諦めるわ」
佐原「諦めちゃうのか、残念だ」
根岸「竹しか出てこないじゃんそのポッケ」
佐原「竹はすごいんだぞ? いろんなことに使えるし、強度もすごいし、しかも成長が早いし」
根岸「うん、まあすごいのかもしれないけどさ、未来から来たヤツが出す道具としてはどうなんだよそれ」
佐原「ダメかね」
根岸「現代にもあるし、竹」
佐原「ふむ」
根岸「あ、じゃあアレ出してよ、あれ」
佐原「ほい、竹」
根岸「だっ、いやだから違う!」
佐原「何さー」
根岸「ほらあの歌の三番」
佐原「世界旅行に、行きたいなー?」
根岸「そうそれ、どこでも―――」
佐原「竹ぇ!」
根岸「万能じゃないからな竹!」
佐原「えぇ……」
根岸「『そんなぁ』って顔されても……」
佐原「でも俺、竹しか出せないよ……?」
根岸「なにその中途半端な絶望……」
佐原「そもそも世界旅行なんて、飛行機とかで行けばいいじゃないか」
根岸「そんな普通な」
佐原「大体、ビザとかどうする気だよ」
根岸「えぇ……そんな、現実的すぎる……」
佐原「ちょっと頑張って残業とかして稼いで、有給でもパーっと使って行けばいいんだよ、海外なんて」
根岸「いやそんな、バブル期のビジネスマンじゃあるまいし」
佐原「それができないなら、ほら!」
根岸「……竹……」
佐原「な!」
根岸「いや意味がわからん。竹ばっかりだ」
佐原「うむ?」
根岸「というか、何周回ったファッションなんだその、肩幅の広いダボダボのスーツは」
佐原「今はこういうのが流行りなんだよ、ケミカルウォッシュジーンズとかも流行ってる。というかお母さんが買ってくる」
根岸「……」
佐原「……ん?」
根岸「んー」
佐原「なんだね」
根岸「80年代?」
佐原「そうだよ?」
根岸「……未来から来たって言ってなかった?」
佐原「うむ、その通り、二十世紀の未来から―――」
根岸「待て」
佐原「待った」
根岸「二十世紀?」
佐原「二十世紀」
根岸「過去じゃん」
佐原「……へ? え、何? 今……宇宙世紀?」
根岸「ガンダムかよ……、今は、二十一世紀だ」
佐原「未来じゃん! うわ間違えた、間違えて未来来ちゃったよ!」
根岸「通りで、未来の道具とか持ってないわけだ」
佐原「ごめん、未来に来るつもりはなかったんだ、帰るわー」
根岸「あ、うん。……というか、タイムマシンが過去に既にあったんだな」
佐原「うむ、これだ」
根岸「……これ……」
佐原「タイムマシン~」
根岸「素材は……」
佐原「竹!」
根岸「イカダにしか見えない……」
佐原「竹マシン~」
根岸「なんだよ竹マシンって……」
佐原「時間移動とか、できるぞ!」
根岸「タイムマシンじゃないか」
佐原「タイムマシンだな」
根岸「万能だな、竹……」
佐原「うん、竹はすごいのだ」
根岸「これで時間旅行ができちゃうのか……80年代……」
佐原「そう、これで時間の大海に乗り出すのだ!」
根岸「これで、時間の大海に……これで……?」
佐原「時間の流れにまかせていれば、どこかには流れ着くんだぜ!」
根岸「やっぱりイカダじゃないか!」
佐原「まあほら、あの猫型ロボの映画一作目もそんなタイトルだったし」
根岸「……?」
佐原「のび太と漂流」
閉幕
最初のコメントを投稿しよう!