No.70『不自由えもん』

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No.70『不自由えもん』

根岸「そーらをじゆうにー、とーびたーいなー」 佐原「はい、竹ぇ!」 根岸「……」 佐原「……」 根岸「……こ、コプターは?」 佐原「竹ぇ!」 根岸「いや」 佐原「どうしたよ根岸くん」 根岸「え、あのさ……」 佐原「うん」 根岸「未来から来たん……だよね?」 佐原「うむ、二十世紀の未来からやってきた、人型汎用決戦兵器だよ」 根岸「青いあの猫型ロボット的なさ? 期待をするわけだよ、こっちは」 佐原「ブカブカズボンの尻にポケットもついてるしな!」 根岸「……そうだね……」 佐原「どら焼きは別に好きでも嫌いでもないぞ」 根岸「あのさ」 佐原「うん?」 根岸「……あの歌みたいにさ」 佐原「歌……」 根岸「うん」 佐原「不思議なポッケで叶えてくーれーるー」 根岸「そうそれ」 佐原「んーふーふふふふふー、ふんふふんふふーん♪」 根岸「歌詞曖昧なのか」 佐原「うむ!」 根岸「そ」 佐原「そ……、そ?」 根岸「そ」 佐原「蕎ー麦ーを夢中でー! 食ーべたーいな!」 根岸「空だ、空」 佐原「空……、空を、ええと……、酢昆布と……」 根岸「……」 佐原「あ! そーらーをじゆうにー、とーびたーいなー」 根岸「うん、それ」 佐原「はい、竹ぇ!」 根岸「なんで竹が出てきちゃうんだ!」 佐原「しかも一本まるまる」 根岸「うん、そう、しかも一本まるまるな。これで二本目だし」 佐原「不思議なポッケだろう?」 根岸「そこはね、そこだけは間違いなく不思議だよね」 佐原「だろう?」 根岸「でさ、空を自由に、飛びたいんだって願いに対して」 佐原「竹ぇ!」 根岸「三本目! 素材じゃん!」 佐原「バンブー!」 根岸「竹じゃん?」 佐原「飛べばいいじゃん」 根岸「あ、何? 魔女のホウキみたいな、そういう空飛ぶ道具なの?」 佐原「ただの竹だけど。飛ぼうと思えば飛べなくもない」 根岸「ただの竹なんじゃないか……」 佐原「こっち側持って」 根岸「はい」 佐原「で、すっごいしならせて……」 根岸「待て」 佐原「何?」 根岸「自由に、飛びたいんだ」 佐原「はい、竹ぇ!」 根岸「だから竹でどうやって自由に飛ぶんだよ!」 佐原「だから、こっち側持って!」 根岸「はい」 佐原「で、すっごいしならせて……」 根岸「待て」 佐原「何?」 根岸「この飛び方は間違いなく不自由だ」 佐原「ふむ、ワガママだなぁ根岸くんは」 根岸「いやうん……、ちょっと空は諦めるわ」 佐原「諦めちゃうのか、残念だ」 根岸「竹しか出てこないじゃんそのポッケ」 佐原「竹はすごいんだぞ? いろんなことに使えるし、強度もすごいし、しかも成長が早いし」 根岸「うん、まあすごいのかもしれないけどさ、未来から来たヤツが出す道具としてはどうなんだよそれ」 佐原「ダメかね」 根岸「現代にもあるし、竹」 佐原「ふむ」 根岸「あ、じゃあアレ出してよ、あれ」 佐原「ほい、竹」 根岸「だっ、いやだから違う!」 佐原「何さー」 根岸「ほらあの歌の三番」 佐原「世界旅行に、行きたいなー?」 根岸「そうそれ、どこでも―――」 佐原「竹ぇ!」 根岸「万能じゃないからな竹!」 佐原「えぇ……」 根岸「『そんなぁ』って顔されても……」 佐原「でも俺、竹しか出せないよ……?」 根岸「なにその中途半端な絶望……」 佐原「そもそも世界旅行なんて、飛行機とかで行けばいいじゃないか」 根岸「そんな普通な」 佐原「大体、ビザとかどうする気だよ」 根岸「えぇ……そんな、現実的すぎる……」 佐原「ちょっと頑張って残業とかして稼いで、有給でもパーっと使って行けばいいんだよ、海外なんて」 根岸「いやそんな、バブル期のビジネスマンじゃあるまいし」 佐原「それができないなら、ほら!」 根岸「……竹……」 佐原「な!」 根岸「いや意味がわからん。竹ばっかりだ」 佐原「うむ?」 根岸「というか、何周回ったファッションなんだその、肩幅の広いダボダボのスーツは」 佐原「今はこういうのが流行りなんだよ、ケミカルウォッシュジーンズとかも流行ってる。というかお母さんが買ってくる」 根岸「……」 佐原「……ん?」 根岸「んー」 佐原「なんだね」 根岸「80年代?」 佐原「そうだよ?」 根岸「……未来から来たって言ってなかった?」 佐原「うむ、その通り、二十世紀の未来から―――」 根岸「待て」 佐原「待った」 根岸「二十世紀?」 佐原「二十世紀」 根岸「過去じゃん」 佐原「……へ? え、何? 今……宇宙世紀?」 根岸「ガンダムかよ……、今は、二十一世紀だ」 佐原「未来じゃん! うわ間違えた、間違えて未来来ちゃったよ!」 根岸「通りで、未来の道具とか持ってないわけだ」 佐原「ごめん、未来に来るつもりはなかったんだ、帰るわー」 根岸「あ、うん。……というか、タイムマシンが過去に既にあったんだな」 佐原「うむ、これだ」 根岸「……これ……」 佐原「タイムマシン~」 根岸「素材は……」 佐原「竹!」 根岸「イカダにしか見えない……」 佐原「竹マシン~」 根岸「なんだよ竹マシンって……」 佐原「時間移動とか、できるぞ!」 根岸「タイムマシンじゃないか」 佐原「タイムマシンだな」 根岸「万能だな、竹……」 佐原「うん、竹はすごいのだ」 根岸「これで時間旅行ができちゃうのか……80年代……」 佐原「そう、これで時間の大海に乗り出すのだ!」 根岸「これで、時間の大海に……これで……?」 佐原「時間の流れにまかせていれば、どこかには流れ着くんだぜ!」 根岸「やっぱりイカダじゃないか!」 佐原「まあほら、あの猫型ロボの映画一作目もそんなタイトルだったし」 根岸「……?」 佐原「のび太と漂流」 閉幕
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