プロローグ

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 人生どん底、お先真っ暗。そんな言葉が頭に浮かぶなんて、いったい誰が予想出来ただろうか。  確かに、今までの僕の人生は決して良いものだとは言えないが、この仕打ちはないと思う。神さま、僕はあなたに何かしましたか?  時は十二月、寒さで身が震える季節。ここは町の古びた中華屋さん。見た目も中も汚いが、味は絶品でしかも値段も安いということで人気のお店だ。  話には聞いていたが、入るのは今日が初めてだった。その店で一番入口に近いテーブルに僕は座った。  注文したのはラーメンと半チャーハン。運ばれてきた料理を僕は黙々と、険しい顔のままで食べる。空腹がスパイスとなり、普通ならば絶対においしいはずなのに、残念ながら僕の中の絶望が味を感じさせてはくれなかった。僕はため息が出そうになるのを我慢し、機械のように黙々と料理を口に運んだ。  そんな中で僕は、時々食べる手を止める。そして観察するかのように店内を見回す。見るからに怪しいだろうなとは思ったが、止めるつもりはなかった。幸運なことに、今はお昼を過ぎてお客さんが少ない時間帯、店員も気を抜いているのかスポーツ新聞を広げている。僕の様子には全く気づいていなかった。 (よし、大丈夫そうだな。でも、本当にこのまま……。いや、もうどうでもいいんだ。もう僕の人生なんて……)  しばらくして僕は食事を終えた。空っぽになった器。もっと早く来ていれば良かったなとそんな後悔が一瞬よぎる。だけど今更な話である。  僕は決意を込めた顔で席から立ち上がる。  その時だった。 「ダメですよ、食い逃げは」  いつの間にか、向かいの席に男性が座っていた。僕は驚き、この宙に浮いた腰をどうしようかと迷う。このまま無視して逃げるか、諦めて座り直すか。  僕は向かいの男性をじっと見る。彼は優しい笑みを浮かべたままで何も言ってこない。さらにその表情や雰囲気には、僕を糾弾しようとする意思を全く感じさせなかった。君の意思は尊重するが止めた方がいい、そう言われているような気がした。そんな男性の態度が僕の反抗心をなえさせる。  僕は静かに腰を落とした。男性もそれを見てホッとした様子だ。そして何事もなかったかのように店員に注文する。
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