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「僕は富田龍臣って言います。十九歳です。僕、今、一文無しなんです」
「…………」
「高校卒業してすぐ就職したんですけど、その会社が急に倒産して、住んでいた寮も追い出されてしまって。だから今はお金もなくて家もない。実家に仕送りしたいのにそれも出来ない状況なんです」
「…………」
「実家は母とまだ高校生の妹だけです。貧乏だし、僕だけが頼り綱だから、こちらから頼ることも出来なくて」
「…………」
ズルズルと男性の麺をすする音しか聞こえない。相づちさえ打たず、ただ黙って聞いているだけ。いや、聞いているのかさえも分からない。でもそれが逆に話しやすく、僕は胸の内にたまっていた虚しさを吐き出していった。
「どうしていいかわからなくなって途方に暮れていたんです。だけど道を歩いていたら、美味しそうな匂いが漂ってきて。こんなどうしようもないときでも、人間、お腹だけは空きますから」
「…………」
「お金、ほとんど持ってなかったのに……ほ、本当に情けないです……」
僕は出来るだけ、人ごとのように話した。無表情で無感情に。そうでもしなければ泣いてしまいそうだったから。だけど後半はもう胸が詰まって、堪えていたものが、自分の意思に関係なくこぼれ落ちていく。鼻をすする音が何とも間抜けに響いて、情けなかった。
男性はタンメンをすでに食べ終えていた。おそるおそる僕は男性の顔をうかがい見る。すると彼は自分のことのように、顔を苦痛でゆがめていた。それがうれしく思う反面、申し訳なさが込み上げてくる。
決して愉快な話ではなかっただろう。それなのに彼は、黙って僕の話に耳を傾けてくれた。そのことに関しては感謝しかない。おかげで僕は少しスッキリ出来たし、冷静さを取り戻せたように思う。
するとここで、男性が胸ポケットから一枚の名刺を差し出してきた。
「私はこういうものです」
僕はおそるおそる、差し出された名刺を受け取った。
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