プロローグ

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「何から何まで、すみません」 「いいえ。ですが、富田くんはアパートに引っ越せるようになるまでですよ。あんまり甘やかすと、またみんなに叱られてしまいますからね。お人好し過ぎるとよく怒られるんです」  照れながらこう言う牛久所長に、僕もつられて笑ってしまった。  お人好し過ぎる、まだ会って間もない僕でさえも納得してしまう。きっと彼からそういう感じがにじみ出ていたから、僕もすぐに心を許し、信じようと思ったのかもしれない。例えこんな状況ではなかったとしても、僕はきっと首を縦に振っていただろう。  人生何が起こるかわからない、これはそういう出会いだった。  僕はこのとき、この出会いが自分の人生を変えてくれるかもしれない、そんな予感をちょっぴり抱いていた。  しかし、人生なかなか上手いこといかないというのは世の理。それは僕も例外ではなかったようだ。  あぁ神さま、やっぱりあなたはひどい人です。  なぜならばこの探偵事務所、やはりただの探偵事務所ではなかったのだから……。
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