依頼その1 家出少年の捜索

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        1  僕が牛久探偵事務所で働き出して一か月が経とうとしていた。  牛久所長に声をかけられたのが十二月なので、今は一月、冬真っただ中だ。そのため雨風しのげる寝床があるのは本当に助かった。知識も経験もない僕がホームレス状態だったら、百パーセント凍死していただろう。  しかし残念ながら、まだこれといった仕事はしていなかった。ほとんど掃除やお茶くみなどの雑用のみで、暇を持て余すほど。  それにはちゃんとした理由がある。なんと僕が来てからの一か月間、依頼人が一人も来ていないのだ。雇われている側の僕でさえ、事務所の経営状況を心配せざるをえない状況である。お給料はちゃんと出るのかと、最近は常にその不安がまとわりついている。  だけど、僕がこうして心配しているというのに、ほかのみんなはどこ吹く風といった様子なのだ。その余裕は一体どこからくるのだろう。  そしてこの日は給料日前日であった。心配と不安が頂点に達した僕は、思わず大きな声を上げていた。 「ちょっといいですか? 皆さん、平気なんですか? 一か月も依頼が無いんですよ。お金とか、ここのお家賃とか心配にならないんですか?」 「依頼人なんて来るときは来るし、来ないときは来ない。そんなものだ。心配したってしょうがないんじゃねぇ?」  僕の不安を一蹴したのは、オレンジ色の髪をした青年。革ジャンにだぼっとしたズボン、耳にはたくさんのピアスをしている。いわゆる、たまに見かけるヤバい若者といった風貌だ。そんな彼の名は稲森健太。探偵の一人である。 「でも、お金は大事だと思うけど」 「確かに、生きていくには金がいる」 「だったら働こうよ」 「働きたくても依頼が無いっつうの! 別に龍臣はここに住んでるんだから家賃の心配いらないだろ? いいよなぁ、家賃タダでそのうえ幼女付きかぁ……うらやましい」 「やめてよ、なんか犯罪者みたいに聞こえる」 「まぁ、あんまりがっつくとかっこ悪くないか? とりあえず、どっしりと構えていようぜ。いつか来る仕事のためにさ。さぁ、温存だ!」  そう言って健太くんはソファで横になった。体力温存のためのお昼寝らしい。呆れてものも言えない僕は牛久所長に救いの目を向ける。それに対して、牛久所長は苦笑いを浮かべるだけ。所長なのにいいのだろうか。  がっくりと肩を落とす僕。すると誰かが袖を引っ張った。
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