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Order 002
ツインテールの少女の名はココ·グラッドスト―ン。
桐花が通う公立中学校の生徒で、同じ教室のクラスメイトだ。
まだ転校したばかりの頃に受けたテスト――日本でいう国語の試験以降、それ以来ココは、なにかと桐花につきまとう様になった。
その理由は――。
学校始まって以来の天才だったココは、雪辱を果たすべく、桐花のあとを追いかけているのだった。
桐花に突っかかるココ。
その様子を真奈美は嬉しそうに見ていた。
「桐花ちゃん、よかったね。ココちゃんのおかげで学校でも楽しそうで」
「……どこがよ」
微笑んでいる真奈美に、桐花は呆れている。
桐花は、新しい環境――周りに日本人の居ない学園生活でもうまくやってはいたが、特別親しい友人はいなかった。
そのことを心配していた真奈美だったが、こうやってココが店に遊びに来てくれていることで安心していた。
それはココも同じだった。
桐花が現れるまではいつもひとりぼっちだったココが、今ではずっと彼女と一緒にいた。
店内では、ココが突っかかり続けているが、桐花には勝負する意思はまったくない。
店にいた客も、気にせずにまたたこ焼きを食べ、紅茶やコーヒーを飲み始めている。
小さな子供たちは、カフェ内にポツンと置かれた太った黒猫のぬいぐるみを持ってはしゃいでいる。
欧米人――いや、特にイギリス人は、自分に害がなければ他人が何をしようが気にならないようだ。
「桐花、あなたに負けてから私はさらにパワーアップしたわ。私は死の淵から復活すると強くなるサイヤ人と同じ戦闘民族なのよ」
「なにそれ?」
「あなた……日本人なのにサイヤ人を知らないの!? なら『ハムレット』を引き合いに出せばわかる?」
「……それはわかるけど。あたしはテストの点数で勝っただけで、あなたのパパを毒殺してないわよ」
桐花は英文学を学ぶためにロンドンへ来ただけあって、当然シェイクスピアの作品はほぼすべて読破している。
ココも桐花と同じように本が好きだった。
そして――それと同じくらい日本の漫画やアニメも好きだったが、桐花はまったく読まないし観ないので、話が通じないことがよくある。
「じゃあ、ココちゃんはそのうち超ココちゃんになるんだね」
真奈美が目をキラキラさせながら会話に入ってきた。
彼女もココに負けない――いやそれ以上のオタクである。
真奈美の言葉を聞いて「当然」と、両手を腰に当てて、高笑いを始めるココ。
「さあ、見るがいいわ桐花。私の新たな力を!」
ココはそう叫ぶと、持っていたスクールバッグから何やら小さな玩具を取り出した。
手のひらサイズのヘリコプターのようなピーチカラーの物体――小型ドローンだ。
ココは右手と左手それぞれに片手で操縦できるリモートコントローラーを持って、桐花に向かってニヤリと笑った。
「うかつだな、桐花。行けっ! ファンネル!!」
ココの言葉と同時に白い小型ドローンが動き出した。
ノロノロとゆっくりと桐花を囲むように飛んでくる。
桐花は呆れた顔をしながら、二台のドローンを眺めていた。
「捕捉したぞ。この俗物が!」
「キャ~ハマーン様!」
ココは何か芝居がかった喋り方で叫ぶと、真奈美が嬉しそうに続いた。
桐花が「キモ……」と呟くと、二台の小型ドローンから液体が発射される。
「うわぁっ!? な、なんなのよこれ!?」
ドローンから発射された液体は、ただの水だった。
だが、それでも先ほどから無表情だった桐花が、急に慌てふためく様子を見たココは、満足そうに笑みを浮かべている。
そして、再び険しい表情へと戻った。
「これで終わりにするか、続けるか、桐花!?」
ビショビショになった桐花はココを睨む。
対峙する桐花とココ。
「桐花ちゃんもココちゃんもすごいプレッシャー……。一体どうなっちゃうの……?」
ココと同じように芝居がかった真奈美が言葉を発する横で、煙草を吸いに行って戻った柊が呆れた顔をして立っていた。
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