Order 012

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Order 012

――真奈美たちがマークのいるロンドン市警察へと向かった後。 桐花は一人である路地裏へと来ていた。 そう――。 ココが囲まれていた白い猫を、野良猫の集団から助けた場所だ。 そこには、真新しい犬猫用のフードボウルが置かれていた。 桐花はそれを見て、ココがここへ来ていたのだと確信する。 ……やっぱりエルメス叔母さんに飼いたいって頼んだのは、あの白い猫のことだったんだ。 じゃあ、ココがこの近くにいることは確実。 あたしたちくらいの子供が、そんなに遠くへ行けるはずもないからね。 桐花は、最近雑誌で読んだことを思い出していた。 ……たしかスクワットっていったっけ。 スクワットとは、空き家や空きビル、居住者が留守中の家屋などを無断で占拠(せんきょ)することの呼び名だ。 2012年頃のまでイギリス、オランダ、ドイツなどの欧州諸国では、このスクワット行為そのものが合法であるとされてきた。 スクワットが広がった理由には、1960年から1970年代にかけて不動産オーナーが投棄目的でたくさんの空き物件を放置したために、住居のない若者たちが住み始めたのが始まりとされている。 それから時代の――ヒッピームーブメントや学生運動、そして1970年から1980年代にかけての反体制の労働者運動などの流れに(ともな)い、社会的、政治的な運動として拡大していた背景がある。 ……この近くの空き家や廃ビルなんかをしらみつぶしに探していけば、ココが見つかるかも。 桐花は早速その周辺を探し始めたが、それらしき建物を見つけることはできなかった。 それも当然だろう。 スクワットは、現在のイギリスでは立派な犯罪行為だ。 そのため多くの空き家や廃ビルは、とっくに撤去されてしまっている。 もう陽が沈みかけた頃、彼女が途方に暮れていると――。 「これすげえな。一体どうやって飛んでんだ?」 目の前をアメリカ風ヒップホップのファッションに身を包んだ白人たちが、大声で話しながら歩いてきた。 ……日本にもだけど、このロンドンでもまだあんなのがいるんだ。 オーウェン·ジョーンズの『チャヴ 弱者を敵視する社会』だったかな? たしか、こういう人たちのことをチャヴっていうんだっけ。 チャヴとは、イギリスで使われているスポーツウェアを着た反抗的な若者についてのステレオタイプをあらわした蔑称(べっしょう)だ。 もっと砕けた言い方をすれば、若年労働者階級のサブカルチャースタイルである。 桐花は関わりたくないので、目をそらして道を(ゆず)ると――。 「こんな小せえのによく飛ぶよな」 ……あれってココが持っていたやつじゃ……? その白人たちが持っていたのは、手のひらサイズのヘリコプターのようなピーチカラーの物体――小型ドローンだった。 白人の男たちは、二台の小型ドローンを(もてあそ)びながら、ヘラヘラと大声で話を続けている。 「それにしてもよ。歩くのダルくねえ?」 「しょうがねえだろ。ロトのやつがスクーターじゃ足が付くとか言いやがるんだからよ」 「うちのボスは臆病者だからな」 もしかしたら単なる偶然なのかもしれない。 たまたまココと同じモノを持っていただけかもしれない。 だが、桐花は白人の男たちの後をつけ始めた。 白人の男たちは、そのままの音量でさらに話を続ける。 「そんな臆病者のロトがめずらしく躍起(やっき)になってやがったな。グラッドスト―ンだっけか? あいつロリコンだったのか?」 「どうでもよくね? さっさとチキン買って帰ろうぜ」 「俺が言いてえのは金になんのかってことだよぉ。あんな子供(ガキ)(さら)ってきてよぉ」 ……グラッドスト―ン!? 間違いない、こいつらがココを攫ったんだ。 それから桐花は、ポケット入れていたスマートフォンを操作すると、そのまま彼らと距離を取りながら後をつけていった。
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