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「依ちゃん、依ちゃん起きて!」
「ん~」
「信じられない。教室で爆睡?」
「ん~」
親友のはじめが容赦なく肩を揺らしてきて、私は見ていた夢の世界から現実に還ってきた。
いつだって寝起きの良い私は、目を開けた瞬間に完全覚醒。
「あ~、なんか、すっぅぅ、ごい、気持ち良かった!」
両腕を大きく上げて、思いっきり背中を逸らして伸びをした私に、はじめが噴き出すようにして告げる。
「もう、依ちゃんったら、そんなに良い夢だったの?」
「うん。良い夢だった」
初めて、海斗と出会ったあの日の夢。
「なんか依ちゃん…疲れてる? 顔色悪いよ? 引っ越しの準備そんなに大変なの? あたしも手伝おうか?」
矢継ぎ早に伝えてくるはじめに、私は手を振って応えた。
「大丈夫だよ。入るの寮だし、ほとんど服ばっかり」
「そっかぁ…」
はじめが、寂しさ全開で小さく微笑んで、それから校庭へと目を向けた。
私も釣られて、頬杖をつきながら顔を向ける。
まだ午後四時の校内は、夕暮れの気配すらない時間。
春を間近にした日常が、素の表情のままで彩られずにそこにある。
「来週からは調整期間でお休みかぁ。後は卒業式を待つだけなんて、信じられないね」
「…そうだね」
私は県外の看護学校へ。
はじめは電車で通える短大へ。
「でも依ちゃんは、あたしよりもっと寂しくて悲しいよね」
「…どうして?」
はじめの顔を見ないまま、私は聞き返した。
何を意味した言葉だったのか、ちゃんと解っていたのに。
「だって、海斗君と離れ離れに――――――、」
「――――――私、海斗とは別れるよ?」
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