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恋の鍵を
「あの。これは?」
「……言ったでしょう。僕は幹事だって。それで、夕食とお風呂のことなんですけど」
「は、はい。伺っております」
彼の会社はネットで詳しく送ってきていたが、機械に疎い女将の代わりに対応していた彼女は必死に仕事の顔で彼と打ち合わせをした。
「アレルギーがある方のお料理はこちらで。それと貸切風呂については、3つあるうち、お客様に常時お一つお使いいただけます」
「そうですか。案内してくれますか」
「はい。こちらです」
社員達が部屋にチェックインしている間に美樹は彼を貸切風呂に連れてきた。
「この『星の湯』です。タオルは置いてあるので」
「……昔と変わらないな。へえ」
「……」
出会った頃に一緒に入った思い出の風呂場を彼は懐かしそうに開けて見ていた。
「お客様。他にご質問は?」
「……美樹って、今は一人なの」
「一人って……仲居は他にもいますけど」
すると彼はあははと笑った。
「相変わらずだね、まあ、いいさ」
なぜか嬉しそうな彼は、彼女の頭をポンと叩き、笑顔を見せた。
これにドキドキしてしまうことに首を振った美樹は、彼に背を向けて仕事場に向かった。
「美樹ちゃん。これ、宴会場にビール!」
「あの人達、まだ飲むんですか?大丈夫なのかな……」
しかし、女将はフフフと黒い笑みを称えた。
「大丈夫よ。そろそろ強いお酒を出すから。そしたらこれ以上飲めないわ」
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