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炭酸
「あ、やっべー……」
「どうした? 透哉」
自身の机で本を読んでいた真矢が、部室の冷蔵庫を開いたまま固まっている透哉に声をかけた。
「いや、ほら。前買った炭酸水。一口二口飲んで忘れてた」
振り返った透哉の手には500mlのペットボトル。中身の透明な液体は三分の一程減っている。
「もう炭酸抜けちゃってるかなー」
「飲むのか? もう何日も前のだろう?」
「だいじょーぶだって、冷蔵庫に入ってたんだし。
キャップを捻る。
しかし、炭酸飲料特有の「ぷしゅ」っという音はしなかった。
「抜けてるっぽいな」
「いや、飲んでみるまでは分からないでしょ」
一口飲む。
「……抜けてる」
「だろうな」
「でも炭酸は無いけど、水とは違う味がする。飲んでみるか?」
「ん、貰おう」
真矢も一口飲む。
「……僅かに味があるな」
「だろー? 何の味だろうな」
「うーん……普通の水に無くて炭酸水にあるもの」
「普通に考えたら炭酸ガスの何か残ったモノとか、保存料とかなんだろうな」
真剣な表情で思案する真矢。すると突然閃いたように顔を上げた。
「いや待て、元炭酸水が『普通の水とは違う』と主張する、反骨心ではないだろうか」
「反骨心」
「そう、反骨心。『俺は炭酸が抜けたって只の水じゃねえぜ!』と。『しゅわしゅわという牙を抜かれたって、俺の心は炭酸水のままだぜ』という反骨心」
「確かに言われてみれば、反骨心っぽい味のような気がしてきた。甘いとかしょっぱいって感じじゃないもんな、反骨心って」
真矢の回答が気に入り、気の抜けた炭酸水を一気飲みする透哉。
しかし笑顔が急に真顔に戻る。
そして重々しく呟くのだった。
「でも美味しくねえわ」
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