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帰りの飛行機の時間が迫っていた。
一週間の間に、由奈は施設を抜け出す方法を見つけ出していた。
施設内には人がいないため、誰にも邪魔されることなく自由に行動できた。それでもあまり早く抜け出しては、飛行機に乗る前に、捕まってしまう。
そう考えた由奈はギリギリまで待って施設を抜け出し、タクシーに飛び乗った。
飛行機に乗るまでに、数人と目が合った。
けれど目が合ったからと言って、すぐに相手が死ぬわけではなさそうだ。最初は本当にそんな化け物のような病気なのかと疑うほどだった。
飛行機の中で最初に目が合ったのは隣の座席の男性だった。小一時間程で彼が息をしていないことに気付いた。
彼の目は開いたままだった。
由奈は持っていたサングラスを慌てて彼にかけさせた。
さらに一時間程したところで、石のように固まっていた男性の首がカクンと前に倒れた。
由奈は悲鳴を上げそうになって慌てて両手で口を塞いだ。
首の後ろ半分は折れたように亀裂が入っている。
――お願い、早く日本に着いて!
人の頭とはこれほど重い物なのだろうか。由奈は渾身の力で頭部を首の上に座らせ、スカーフを巻き付けた。
飛行機が揺れる度にその頭が落ちて転がるのではないかと冷や冷やしながら、由奈は空港で足止めされずに家に帰る方法を考え続けた。
これは病気なのだ。自分が殺したわけではない。日本に着いてもこのままでは由奈は隔離されるに違いない。誰か他の人物に目を向けさせなければ……。
客室内を見渡せば、由奈に背格好の近い女性客が何人かいる。
石化した何人かとともに一人だけ生きた状態で閉じ込めておけば、誰もがキャリアはその人物だと思うだろう。
どうせ誰もキャリアの顔を見ることはできないのだ。本人でさえも確かめることはできない。
考えがまとまると由奈は両腕を伸ばした。
一刻も早く自分の家に帰って熱いシャワーを浴びたい。
そして明日からまたいつもの生活に戻るのだ。
もうしばらく海外旅行はごめんだ。
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