婚約破棄、されました

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婚約破棄、されました

「シルヴィアーナ・メルコリーニ! そなたとの婚約は破棄する!」  聖エイディーネ学園の大講堂。朗々とした若者の声が響きわたる。声を発したのは、ベルニウム王国の王太子、クリストファーだ。  今日、卒業式を迎えるということもあり、大講堂には学園に通う生徒全員が集まっている。  学園の制服は、白を基調とした男女ほぼ同じデザインだ。相違点は、男子生徒はズボン、女子生徒はふくらはぎの半ばまで届く長いスカートという点くらいだ。  そんな中、黒の正装に身を包んだクリストファーは、立っているだけで人目を引き付ける。すらりとした長身に、細身の体躯。ハシバミ色の髪は額に落ちかかり、時に物憂げな表情を演出する。  その彼が大声を上げたものだから、周囲の視線は一斉に彼に向き、それから婚約破棄を言い渡された令嬢の方へ移動した。  黒い髪を豪奢な縦ロールにセットし、皆と同じ制服に身を包んだシルヴィアーナ・メルコリーニは、すっと背筋を伸ばした。 きちんと整えられた髪を、乱れてもいないのに手で整えなおしたクリストファーは、今、自ら婚約破棄をたたきつけたばかりの『元』婚約者に勝ち誇ったような笑みを向けた。  閉じた扇を右手に持った彼女は、ゆるりと口角を上げる。 「謹んでお受けします!」 「そうか、それなら――ん? 婚約を破棄すると言ったのだぞ」 「謹んでお受けします!」  同じ言葉を繰り返し、婚約を破棄されたばかりの哀れな令嬢の方は、満面の笑みだ。彼女の笑みを見ていると、どこが哀れなのか怪しくなってくるが。  一方的に婚約を破棄された彼女の方は、こんな場で婚約破棄を申し渡され、さぞやつらい思いをするだろうというのが、その場に居合わせた者達の一致した見解だった。だが、どうやらそれは間違いのようだ。
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