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スローライフを始められ…ませんでした
(種と苗はダンジョンから持ってきたのがあるでしょ。柵の補強が必要。それから井戸の整備も)
もちろん、何年もかけて準備はしてきたのだが、『とある事情』により、シルヴィの稼ぎは大半が貯金とは別の目的に費やされていた。
これからは、農場の整備に費用を費やすことができるが、もう少し資金はあった方がよさそうだ。
(ウルディに行って、何か仕事をもらおう)
冒険者ギルドに行けば、仕事はいくらでもあるはずだ。
そんなことを思いながら、キッチンへと戻る。乏しい保管庫の中身を確認しながら、昼食は何にしようかと考えていたら、キッチンの扉が勢いよく開かれた。
「まあ! シルヴィちゃん。大講堂で簡単に消えるから、お母様びっくりしちゃったわ!」
ノックもせずに扉を勢いよく開け放ったのは、メルコリーニ公爵夫人。つまりシルヴィの母親だ。
シルヴィと同じ黒髪に紫水晶のような紫色の瞳。子供を産んだとは思えないほど若々しい美女だ。
「ごめんなさいね、お母様。でも、勝手に家に入ってくるのはどうかと思うの。私、きちんと鍵はかけていたはずだけれど」
「そんなの、私の前では鍵なんて何の役にも立たないことくらい、あなたならよくわかっているでしょうに」
「そうだったわね、お母様……」
保管庫の扉を閉め、シルヴィは遠い目になった。
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