スローライフを始められ…ませんでした

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 メルコリーニ公爵家は、代々武闘派と言っても過言ではない。   なにせ、初代メルコリーニ公爵は、"冒険者になりたい"とかいう理由で王家を出奔したとんでもない人間だ。  冒険者を引退後、今さら王家には戻れないという理由で公爵位を賜って、メルコリーニ家を興している。  そんなわけで、"優秀な冒険者であること"という一点をクリアすれば、本来なら身分違いである平民出身の冒険者との結婚も、メルコリーニ家においては比較的容易に認められる。  そして、母はその平民出身の冒険者であった。超一流の回復魔法の使い手でありながら、そこそこ戦闘もこなすことができる。母の戦う姿に一目ぼれした父が、三年かけて口説き落としたらしい。  鍵をかけていたところで簡単に外すことができる。今でも『部下を鍛える』という名目で、メルコリーニ家に仕える護衛達をしごき倒しながら実践訓練を積んでいる。その腕は冒険者を引退した今も衰えていない。 「何か問題でもあった? 私、ちゃんと片付けてきたはずだけど」  王太子クリストファーとの婚約が破談になるであろうことは、カティアとの仲が噂になった頃から、メルコリーニ公爵家の全員が理解していた。  そのため、半年以上前からシルヴィは準備を進めていた。今さら、問題が発生するとも思えない。母はぷくりと頬を膨らませた。
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