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「……婚約破棄だぞ?」
「謹んでお受けします!」
どこの居酒屋かと突っ込みたくなる勢いで、シルヴィアーナは同じ言葉を繰り返す。前のめりになった勢いで、縦ロールがばさりと宙を舞った。
「婚約破棄でございましょう? 喜んで受け入れますとも! 喜んで! 大喜びで! 全力で喜んで!」
「こ、婚約破棄だぞ! 王太子妃の座から降ろされるんだぞ!」
「わたくし……かまいませんけれども?」
豪奢な縦ロールとなっている黒い髪を揺らし、シルヴィアーナは唇に閉じた扇を当てて思案の表情となる。
皆と同じ制服を着用しているというのに、シルヴィアーナの美貌は際立っていた。扇を当てたその姿は、そのまま一幅の絵になりそうだ。
彼女の返事があまりにも思っていたものと違うからか、クリストファーの方は怪訝な表情になった。
これでは、どちらが婚約破棄を申し入れた側なのか、見ている者達にも疑問に思えてくる。
「でも、……『わたくし』が婚約破棄を言い渡される理由くらいはお聞きしてもよろしいでしょう? この場に集まっている方々も、その点は気になると思うんですの」
レースの扇を手にしたシルヴィアーナは首をかしげ、それからゆるりと大講堂内に視線を巡らせる。
彼女と目が合って真正面から見返してくる者、気まずそうに視線をそらす者、視線が合う前にうつむいて床の木目を数え始める者など対応はさまざまだ。
「わざわざ、卒業の日に婚約破棄を言い渡すのですもの。よほどの理由がおありなのでしょう? 婚約を解消したいのであれば、国王陛下から我が家にその旨を通達すればいいのですから」
彼らの反応も、想定内だったのか、シルヴィアーナは特にとがめることもなく続けた。
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