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出陣準備
結局、新天地に旅立ったシルヴィは、その日のうちに公爵家に連れ戻されることとなった。
大騒ぎとなった卒業式の翌日。
シルヴィは公爵家の自室で、侍女達にドレスを着せ付けられていた。身支度に人の手を借りるのは、日常なので慣れっこであるけれど、鏡を見ながらつぶやく。
「とんだ茶番よね」
婚約破棄も茶番だし、それにともなう後始末も茶番だ。ついでに、敷地内の点検をすませただけで連れ戻された"スローライフのスタート"も茶番と言えば茶番かもしれない。
「――まあ、戦闘着と思えばちょうどいいわよね。このドレスも」
侍女達総出で着せ付けられたのは、ド派手な深紅のドレスだった。
胸元は大きく開き、シルヴィのスタイルの良さを際立たせている。
胸から腰にかけてのラインはすっきりとしていて、腰はきゅっと細い。悪役令嬢という設定柄、シルヴィはなかなかのスタイルの持ち主なのだ。
裾に金糸で刺繍を施したスカートは、まさしく女王の風格。黒髪は、戦闘スタイルの縦ロール。上半分だけを後頭部でまとめ、ドレスと同じ赤いリボンを飾る。
最後に、レースの扇を持てば戦闘準備の完成だ。靴の踵は高く細く、シルヴィのスタイルの良さを際立たせている。ついでに言えば、ピンヒールはけっこうな凶器でもある。
「はい、今日もとてもお美しいですよ」
茶番という言葉には触れず、シルヴィの支度にかかっていた侍女のうち、一番年上の者がにっこりと微笑んだ。
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