出陣準備

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「ありがとう。それでは行ってくるわ」  部屋を出たシルヴィが優雅な螺旋階段を下りていくと、父がすでに待ち構えていた。  四十代も後半だが、母ほどではないにしても実年齢より若く見える。父もまたエイディーネ学園の卒業生であり、なかなか優秀な成績で卒業したという話だ。  父は、黒い正装を身に着け、登城するのにふさわしい身なりを整えていた。  その側に従う母も、シルヴィのところに押しかけてきた時とは違い、青い清楚なドレスを身に着けている。ド派手な赤の娘とは対照的な雰囲気だ。 「お待たせしました、お父様、お母様」 「何、すぐに戻ってくることになるとは思っていたよ」 「早すぎますわ、お父様。せっかくのんびりする予定でしたのに」  あくまでも貴族令嬢らしいふるまいは崩さずに、それでも唇を尖らせる。 「すぐにでも決着をつける。あの方のやり方には、我が家もいろいろと思うところがあるからね」 「私としては、シルヴィちゃんがこの家にいてくれた方が嬉しいのだけれど……」 「卒業したら、数年は好きにしていいというお話だったわよ。お母様」 「しかし、殿下があの場で婚約破棄を申し出るとは思わなかったな。しかも、カティア嬢のあやふやな証言だけで」 「殿下はカティア嬢に夢中だもの。しかたないわ」  しかたのないという言葉のままに、シルヴィは肩をすくめる。  公爵家も一応、王位継承権は残されているが、現在の国王には、三人の王子がいるので、公爵家に王位が回ってくる可能性は限りなく低い。
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